2012年05月06日

『宇宙兄弟』


監督:森義隆
原作:小山宙哉「宇宙兄弟」(講談社『モーニング』連載)
脚本:大森美香
出演:小栗旬、岡田将生、麻生久美子、濱田岳、新井浩文、井上芳雄、塩見三省、堤真一、益岡徹、森下愛子、吹越満、ほか
2012年

連休も、ほとんど毎日深夜まで仕事漬けなので、一息入れたくて、気楽に観られそうな映画を観に行って来た。またまた原作は漫画かと、あまり食指が動かずにいたが、麻生久美子、濱田岳、新井浩文と、私の好きな俳優さんたちも出演していることを知って、俄然観る気になった。ほのぼのとして楽しい映画だったと言えるだろう。

幼い頃から宇宙に興味を抱き、将来は宇宙飛行士になろうと約束を交わした仲の良い兄弟、南波六太(小栗旬)と南波日々人(岡田将生)。長じて、日々人は実際に宇宙飛行士になったが、六太は自動車会社で新車開発を担当するサラリーマン。しかも、上司と衝突してクビになってしまう。そんな折、JAXAが次期宇宙飛行士の募集を行い、六太のもとに、第一次書類審査合格の通知が届く。それは日々人が勝手に応募したものだったが、日々人は尻込みする六太に幼き日の約束を思い出させる。常に弟の前を行くのがモットーだった六太は遅れはとったものの、約束を果たそうと、第二次、第三次試験に挑戦する。

兄弟の幼い日のエピソードがかなり丁寧に描かれるが、見所は第三次試験となる閉鎖環境ボックス内での10日間だ。ひとりひとり個性の異なる6人の受験者が共同生活を送り、様々な課題に挑戦する。能力と人間性が試される試験だ。六太と一番気が合い、すべてにおいて優れた能力を発揮する真壁ケンジ(井上芳雄)、紅一点の爽やかな美女、伊東せりか(麻生久美子)、口から先に生まれたような血の気の多い関西人、古谷やすし(濱田岳)、クールで他人と馴染まない溝口大和(新井浩文)、過去にも受験経験のある最年長受験者、福田直人(塩見三省)の6人が、ときにいがみ合いながら過ごす10日間が、映画の中でもっとも面白かった。とりわけ、濱田、新井、塩見は、これまでのキャリアからすると意外性のある役柄で、彼らの新たな一面が引き出されていたのが楽しかった。閉鎖環境ボックス内のシーンは、かなり力を入れて撮影したそうで、ここでのやりとりをもっと見たかったという気がする。

NASAの許可を得て撮影されたロケット打ち上げシーンや、JAXAの協力を得て実現した本物の管制室など、見所は多いが、やはり核となるのは人間模様だ。漫画の世界に過ぎないストーリーにリアリティーを持たせたのは、辛辣なJAXA職員を演じる吹越満と、冷徹な溝口を演じる新井浩文の存在だと思った。ほのぼのに終始してしまいそうな流れを、彼らがびしっと締めてくれたような気がする。

挿入曲がゴキゲンだったのと、ちょっと登場する犬が可愛かったのもプラス要素だった。あとで映画公式サイトを見て、原作にキャラクターと出演俳優たちが非常にイメージが似ていることに驚いた。小栗のアフロヘアと、井上の無理矢理な前髪は、ちょっと…だが。そして、六太・日々人兄弟の子供時代を演じる子役が、これまた、小栗と岡田にそっくりな2人だったので、可笑しかった。

(2012.5.5 ユナイテッド・シネマとしまえん にて)

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2012年05月05日

『裏切りのサーカス』2度目の鑑賞

試写会で観て、公開されてからもう一度ぜひ観たいと思う作品はそう多くはない。けれども『裏切りのサーカス』は、どうしても再度ちゃんと観たいと強く思ったので、公開初日のレイトショーに行って来た。もう2週間も前のことだが、忙しくて感想を書けないでいるうちに、次の映画を観てしまったので、ともかく書いておかなくてはならない。

レイトショーはときどき行くが、こんなに混んでいる作品は初めてだ。もちろん初日ということもあったろう。そしてこれだけ男性の観客が多い作品というのも、最近では記憶にない。原作ファンが多いのだろう。

ミステリーで結末がわかっているのに、あと何度でも観たいと思わせるのは、それだけ複雑で、一度観ただけではわかりにくい部分があるからということがひとつ。それに加えて、この作品は1950年代のイギリスの雰囲気を緻密に再現していることから、その重厚感にまた浸りたいと思わせる抗いがたい魅力を備えているからでもある。

二度目は人物関係が飲み込めていたから、前回より遙かに内容がよくわかったし、周到に用意された伏線にも気づくことができた。それでもまだ謎が残るので、見終わってから原作を読んだ。かなりの長編を2時間ちょっとにまとめるわけだから、エピソードをだいぶ削ってはいるし、人間関係も簡略化している。それでも、よく原作のテイストを壊さずにあの脚本が書けたものだと、本当に感服する。ミステリーに求められるストーリーの緊迫感と建物の外観や内部のしつらえ、キャストの服装、音楽、すべてが見事にマッチしていて、やっぱりイギリス映画は良いと思えた。スマイリーが映画では素敵すぎると思う原作ファンもいるだろうが、ゲイリー・オールドマンのスマイリーは、少なくとも映画の中ではドンピシャに思えた。あと何度観ても決して飽きることはないだろう。

(2012.4.21 新宿武蔵野館にて)
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2012年04月18日

『僕達急行 A列車で行こう』


脚本・監督:森田芳光
出演:松山ケンイチ、瑛太、貫地谷しほり、ピエール瀧、村川絵梨、伊東ゆかり、伊武雅刀、星野知子、笹野高史、西岡徳馬、松坂慶子、ほか
2012年

残念ながら森田芳光監督の遺作となってしまった作品である。単なるほんわかムードの映画かと思っていたら、10年以上前から企画を温めていただけあって、しっかりとした骨組みの上に、丁寧に作り上げた印象のある佳作だった。全編を通してニコニコしながら観ていられる映画は見終わったあとに幸せを感じられる。

鉄道がテーマで、松山ケンイチと瑛太が共演するという程度の予備知識で観に行ったため、なぜタイトルに「A列車で行こう」(Take the "A" Train)という有名なジャズのスタンダードナンバーのタイトルが含まれているのか不思議に思っていたが、この作品は音楽面にも力が入っている。。偶然に出会った小町圭(松山ケンイチ)と小玉健太(瑛太)は、ともに鉄道オタクだが、小町は車窓からの風景にマッチした音楽を聴くのが好きだし、小玉は鉄工所の跡取り息子ということで、電車の材質にとりわけ興味がある。二人とも趣味に熱心なあまり、女性との付き合いは今ひとつうまく行かない。けれども、それぞれ仕事をきちんとしているという点では、趣味だけに生きているオタクと違って、まっとうな暮らし方をしている。小玉の父が経営する鉄工所は、資金不足で思うような仕事ができない。一方、土地開発会社に勤める小町に、福岡転勤の辞令が下りる。小玉は見合い相手に断られた傷心旅行の意味もあって、福岡まで小町を訪ねる。福岡で難儀な仕事を任された小町と、偶然にも専門を生かすチャンスに巡りあう小玉。二人の仕事はうまく行くのか、また、それぞれの恋愛はどう発展してゆくのか。

登場人物の名字か名前は、すべて特急列車の愛称になっているところが楽しい。外国人の名前の「アクティ」「ユーカリ」となると少々無理矢理だなという印象もあるが。電車の走る風景がふんだんにあり、これが一番の見所だろう。濃い緑の中を走るたった一両の赤い電車などが映し出されると、いかにもな風景なのだが、軽快な音楽が後押しをして、素直に良いなあという気分になってくる。台詞はくすっと笑えるところが多々あり、なかなか洒落ている。一番気に入ったのは、小町が転勤になった「のぞみ地所」九州支社の社員たちだ。俳優さんたちの名前はチラシにも公式サイトにも載っていないが、ひとりひとりに個性があって、話す一言ずつが面白く、ここは脚本がうまいなあと感服。

全体としてホンワカした雰囲気に包まれた作品で、物事は実際にはこれほどうまくは行かないわけだが、ある種のお伽噺と思ってもよいだろう。私は特に鉄道ファンではないが、十分楽しめる映画だった。

(2012.4.14 ユナイテッド・シネマとしまえん にて)

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2012年04月14日

『裏切りのサーカス』試写会

監督:トーマス・アルフレッドソン
原作:「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」ジョン・ル・カレ著(ハヤカワ文庫刊)
制作総指揮:ジョン・ル・カレ
脚本:ブリジット・オコナー&ピーター・ストローハン
出演:ゲイリー・オールドマン、コリン・ファース、ジョン・ハート、トビー・ジョーンズ、マーク・ストロング、ベネディクト・カンバーバッチ、キアラン・ハインズ、トム・ハーディ、スヴェトラーナ・コドチェンコワ、ほか
原題:TINKER TAILOR SOLDIER SPY
2011年イギリス、フランス、ドイツ合作

面白そうなミステリーだし、ゲイリー・オールドマンが主演ということで、ぜひ早く観たいと、試写会に応募し、先日行ってきた。原作は評価の高い作品だそうだが、読んではいない。原作著者のジョン・ル・カレが映画の製作総指揮をとっているということは、原作ファンにとっても満足できる作品に仕上がっているに違いないと想像できる。本年度アカデミー賞にも、ゲイリー・オールドマンの主演男優賞のをはじめとして、3部門でノミネートされている。

をかなり複雑なストーリーとみえて、映画公式サイトには「鑑賞前:ご一読下さい」と、あらすじ解説と人物関係相関図が掲載されている。試写会場でもチラシのほかに「本作を解読するための機密事項」と解説が書かれた紙が配られた。

東西冷戦下、英国諜報部MI6とソ連のKGBの間には、熾烈な情報戦が繰り広げられていた。“サーカス”とはMI6のことである。このニックネームを知る人は多くないだろうから、映画の邦題はどうもしっくり来ない。タイトルだけ聞いたときには、見世物のサーカスのことかと思われる危険性がある。原題に使われているティンカー、テイラー、ソルジャーは、サーカス幹部たちのコードネームである。幹部にはこの3人と並んで、プアマンというコードネームを持つ人物がいる。サーカスのリーダーはコントロール、そしてコントロールの右腕であるジョージ・スマイリーが主人公である。

物語は諜報活動の失敗を糾弾され、コントロール(ジョン・ハート)とスマイリー(ゲイリー・オールドマン)が引退を余儀なくされる場面から始まる。ところが引退生活を送っていたスマイリーに政府高官から極秘命令が下される。元同僚のサーカス幹部にいるソ連の二重スパイ〈もぐら〉を探し出せというものだ。ティンカー(鋳掛け屋)ことパーシー・アレリン(トビー・ジョーンズ)、テイラー(仕立屋)ことビル・ヘイドン(コリン・ファース)、ソルジャー(兵隊)ことロイ・ブランド(キアラン・ハインズ)、プアマン(貧乏人)ことトビー・エスタヘイス(デヴィッド・デンシック)の四人のうち誰が〈もぐら〉なのか。サーカスの実働部隊〈スカルプハンター〉のピーター・ギラム(ベネディクト・カンバーバッチ)たちと協力して、スマイリーの地道な捜査が始まる。

これぞ本格ミステリーという作品だ。派手なアクションもなく、ポイントはスマイリーの調査の手腕とじわじわと核心に迫ってゆく展開で、片時もスクリーンから目が離せない。人物関係をしっかり頭にたたき込み、細心の注意を払って観ていたつもりだが、伏線が巧妙すぎて、ついに全容を理解するに至らなかった。様々なエピソードはわざとぼかした描き方をしてあり、もう一歩踏み込めばわかるのにと思うところで映像を切ってしまう。エンディングは納得できるものに、各所に疑問が残ってしまい、これは公開されたら絶対にもう一度観に行かなくてはと強く思った。原作の翻訳も買って来たが、もう一度観るまで読むのは我慢しておこう。

それでも本当に面白かった。わかりやすい展開でないところ、説明的でないところがまず気に入った。そして男たちのスーツ姿がこれほど魅力的な作品も初めてだ。デザイナーのポール・スミスが全面的に協力したそうだが、素晴らしい仕立てのスーツがとりわけ目を惹く。年配の男たちが仕立ての良いスーツに身を包み仕事をしている姿を素敵と思うのは、自分の年齢のせいかもしれないが、若い人々にもこういうしっとりした美というものを味わってもらいたいと思う。登場人物がほとんど喫煙者であるとか、メガネの形状が現代のものとずいぶん異なるとか、時代を感じさせる雰囲気が満載だ。

錚々たる俳優たちが名を連ねているので、演技面に文句のつけようもないが、ゲイリー・オールドマンは、冷静沈着で明晰なスマイリーとはこういう人に違いないと思わせる説得力があり、姿勢一つとっても見ている者をうならせるに十分。『英国王のスピーチ』で記憶に新しいコリン・ファースは、本当に細かい演技・表情のうまい人だ。男優たちが甲乙付けがたく演技を競っている中、数少ない女優のうち、サーカスの調査部員コニー・サックス役のキャシー・バークが印象に残った。

-----以下ネタバレのため白文字に-----

おそらく色々と勘違いしている部分が多いに違いない。わかったと思っても、そうでないかも知れない。また、見落とした伏線も少なくないはずだ。よくわからなかったのは、結局ソ連の大物スパイであるカーラとは何者か、実在したのかというのが一番の疑問だ。失踪したスマイリーの妻はいったいどうしたのか。テイラーと不倫をしていたことは明らかになっているが、その後どうしたのか?また、彼女はソ連とは関係があるのかないのか?テイラーとスカルプハンターのジムは、男同士で恋仲だったと思われるが、ジムがテイラーを撃ったのは、単に任務にすぎなかったのか、それとも何かもっと他の理由があったのか?コントロールの死因は何か?自殺か他殺か?スマイリーがサーカスに返り咲くのは成り行きなのか、それとも最初からその目的があったのか?そのあたりを再確認したい。

(2012.4.11 よみうりホールにて)

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2012年04月01日

『青い塩』


監督・脚本:イ・ヒョンスン
出演:ソン・ガンホ、シン・セギョン、チョン・ジョンミョン、キム・ミンジュン、イ・ジョンヒョク、ユン・ヨジョン、ほか
原題:푸른소금
英題:Hindsight
2011年韓国

評判のソン・ガンホ主演作品を観に行って来た。韓国映画らしいリアルなアクションと、ちょっと切ない愛とをからめたとても楽しめる作品だった。ポカポカ陽気の昼下がりだったので、いつもなら眠くなる時間帯だったが、だれることのない締まった脚本のおかげで一瞬たりとも眠気に襲われず、最後まで緊張感が維持できた。

泣く子も黙るソウルのヤクザ組織を率いていたドゥホン(ソン・ガンホ)は、今では足を洗い、故郷釜山に帰り、韓国料理のレストランを開く夢を抱いて、料理教室に通う日々を送っている。クラスメートのセビン(シン・セギョン)は無愛想な女の子だが、なんとなくドゥホンにつかず離れずの距離をとっている。暗い影があり、常にすねたような態度をとるセビンだが、意外にも彼女の作る料理はうまく、ドゥホンは彼女に関心を抱く。だが彼女は、オリンピック候補になるほどの射撃の腕を持ち、様々な事情から闇組織の手先として、ドゥホンを探る役目を負っていたのだ。ドゥホンが作り上げた組織は、会長が何者かに襲われて瀕死の状態にあり、跡目を巡って様々な陰謀が渦巻いた状態にある。そして、ついにセビンにドゥホンを殺せという命令が下った。ドゥホンにほのかな好意を感じ始めていたセビンは彼を殺せるのだろうか。

ソウルでの血みどろの殴り合い、迫力のカーアクションや銃撃戦と、釜山の穏やかな海や田園風景が好対照を成している。風景が変わるとドゥホンの表情も変わる。料理教室でのドゥホンは、まるでそこいらの気の良いオジサンにしか見えない。ストーリーにはやや無理があるものの(そんなに大物だったドゥホンがすんなり足を洗えるものかとか、いくら射撃の名手といっても、そもそもは一般人だった女の子に暗殺を任せることがあり得るかとか)、テンポの良さにそれらは気にならなくなった。むしろ、テンポが良すぎて、組織の人間関係がうまく掴めなかったことに不満が残った。そして肝心の塩田の風景が、あまり叙情的に伝わっては来なかったように思う。映写機器やスクリーンの特性にもよるのかも知れないが、普通の田んぼとあまり変わらないような景色に見えたのだ(Webでの予告篇では、もっと塩田が青く見える)。もっと思い切って映像のトーンを変えてしまっても良かったのではないだろうか。

もっとも印象に残った俳優は、ドゥホンの忠実な弟分エックを演じるチャン・ジョンミョンだった。伏し目がちで感情を押し殺したような役柄が非常に似合っていたし、唯一彼が笑顔を見せるシーンがあるが、なかなか素敵な笑顔だった。セビンを演じたシン・セギョンは悪くなかったと思うが、ほとんど下を向いている役柄なので、結局顔があまりよくわからなかった。彼女と較べると、セビンの友だちウンジョン役のエソン(クレジットされていないので、読み方がよくわからないが、アルファベット表記ではEsom)が個性的で好感が持てた。モデルさんでもある方だそう。

エンディングは好き嫌いが分かれるだろう。

-----以下ネタバレのため白文字に-----

この作品のチラシにはドゥホンがセビンに撃たれて倒れるスチールが使われている。これはいけない!わざわざこのシーンを使用するということは、それが結末ではないということに他ならないわけだから、最初からバラしていることになる。だから、エンディングでドゥホンが死んでいないことがわかっても、意外でも何でもなかった。エックやウンジョンまで集って、まさかあれほど明るいエンディングになるとは想像できなかったが。

(2012.3.29 新宿武蔵野館にて)

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2012年03月17日

『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』


監督:フィリダ・ロイド
脚本:アビ・モーガン
出演:メリル・ストリープ、ジム・ブロードベンド、アレキサンドラ・ローチ、ハリー・ロイド、オリヴィア・コールマン、イアン・グレン、アンソニー・ヘッド、リチャード・E・グラント、ほか
原題:The Iron Lady
2011年イギリス

アカデミー賞主演女優賞に輝いたメリル・ストリープ。予告篇を見るだけで、彼女の素晴らしさがうかがえ、公開初日に早速行って来た。メリル・ストリープに関しては、やはり何の文句もつけようがない。うまい!の一言。あれだけ顔も体型も、本物のサッチャーとは異なるのに、まさにサッチャーになりきっていた。完璧に思えるイギリス英語(むろん実際に英国人が聞いたらどうなのかは不明だが)、姿勢、歩き方などの身のこなし、これらがヘアスタイルやメイクと相まって、見事にサッチャーを再現している。そして、首相就任時代の溌剌としたサッチャーから、認知症を患った老境まで、多彩な表情を見せてくれた。

政界を引退し、認知症を患うサッチャーは、未だに自分が英国首相だと思って日々を過ごしている。死んだ夫デニス(ジム・ブロードベンド)の幻影が彼女の支えだ。その老いの日々の合間に、結婚前の若き日々、初めての選挙、首相就任、名演説などのシーンが織り込まれる。うまい構成の脚本だ。とりわけ、夫の幻影が彼女の背景となり、謂わばストーリーテラーの役目をしているのが興味深かった。

日本での宣伝の仕方は、タイトルからして、サッチャーの涙の意味にスポットを当てているが、これはミスリードではないだろうか。全編から読み取れるのは、一人の女性の光と闇、しかも比重は闇のほうに置かれており、その内実は底知れぬ深さを持った完璧な孤独だ。認知症になったサッチャーにリアリティーがありすぎるがゆえに、あまりにも悲しいエンディングだった。認知症の母親を持つ私としては、どーんと気持ちが沈んでしまう映画だった。

それでも、サッチャーが教育相時代の議会での応酬シーンや、発声練習のシーン、ヘアスタイルを変えるシーンなど、楽しい部分もそこここにあった。

(2012.3.16 ユナイテッド・シネマとしまえん にて)

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2012年03月04日

『僕等がいた』(前編)試写会


監督:三木孝浩
原作:小畑友紀(小学館「月刊ベツコミ」連載)
脚本:吉田智子
出演:生田斗真、吉高由里子、高岡蒼甫、本仮屋ユイカ、小松彩夏、柄本佑、比嘉愛未、須藤理彩、麻生祐未、ほか
2012年

吉高由里子を見たいと思い、試写会に行ってきた。純愛コミックスが原作ということなので、映画そのものには、それほど期待感はなかったし、前後編と2本も作っちゃって大丈夫なのかな?と正直思ってもいた。ところが嬉しいことに、観終わってとても満足感があったのだ。もちろんストーリーから言って、後編も観たくなったのは確かだが、前編だけでも十分楽しめる作り方がされていた。

舞台は北海道釧路。高校2年生の高橋七美(吉高由里子)は、ちょっと天然なところもあるけれども、明るくて誰にでも好かれるタイプの女の子。勉強はいまいちでも人望があるせいか、クラス委員を務めている。ある日学校の屋上にポツンと1人でいるクラスメイトの矢野元晴(生田斗真)の姿を見かけ、彼が痛々しそうだと感じた七美は思わず声をかける。元晴は成績優秀、スポーツも得意、イケメンと3拍子揃った男の子で、クラスでも女子たちから抜群の人気だ。七美は時折見せる元晴の寂しげな様子に、力になってあげたいと思うようになり、それがやがて恋心に発展して行く。元晴の親友である竹内匡史(高岡蒼甫)から、元晴は事故で亡くした恋人のことを引きずっていると聞かされた七美は、心中複雑だが、気持ちを抑えきれず元晴に告白する。付き合うようになった二人だが、何か元晴といわくありげなクラスメイト山本有里(本仮屋ユイカ)や、七美を密かに思う竹内などの人間関係が、徐々に波風を立てて行く。やがて彼らは卒業後の進路を決める季節を迎える。

共学の高校なら、時代を問わず、地域を問わず、必ずひとつやふたつは転がっているboy meets girl、いやgirl meets boyの話であり、ストーリーとして意外性があるわけではない。従って、映画の面白くするも、つまらなくするも、主人公たちの若者らしい心の動きの描写法次第だ。三木孝浩監督作品を観るのはこれが初めてだが、若者たちの心にきちんと寄り添って、繊細な心配りで作り上げた映画だなと思った。この映画を観ると、言い方は陳腐すぎるのだが、青春時代が懐かしくなるのだ。若い頃は良かったな、ではなく、あの頃は、こういうことをこういう風に悩んだっけとか、こんなことで傷ついたっけとか、何でもないことが、あんなに嬉しかったっけとか、その時代の感情が痛みととともに甦ってくるようだった。戻りたくはないけれども、やっぱり自分にとって愛おしい時代ではあったということを感じさせてくれる作品だ。

吉高由里子が期待どおりの主人公だった。笑い顔が無邪気で可愛いし、失敗をしながらも全身で生きている高校生を好演している。さすがに生田斗真は、ビジュアル面だけは高校生役は無理があると思えた。ちょっと生気がなく、もう大人になりきってしまった顔なので、演技自体は悪くはないのだが、彼がアップで映ると、ややしらけてしまったことは否定しない。その点、高岡蒼甫のほうが生田より年上なのに、まだ少し若く見えるかなという印象を受けた。後編は、もう社会人になった彼らが描かれるのだから、そういった違和感はなくなるかも知れない。

(2012.2.29 なかのZEROホールにて)

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2012年02月23日

『キツツキと雨』


監督・脚本:沖田修一
出演:役所広司、小栗旬、高良健吾、臼田あさ美、古舘寛治、黒田大輔、嶋田久作、森下能幸、高橋努、平田満、伊武雅刀、山ア努、ほか
2011年

なかなか評判がよいようだし、ほのぼのとした予告篇に惹かれて観に行って来た。期待に違わず、とても楽しく、クスッと笑える作品だった。ほのぼのだけの映画は好きではないが、これは舞台背景が面白く、細部には気の利いた味付けがしてあり、時間の流れが自然で、気持ちの良い映画だ。

岸克彦(役所広司)60歳は、3年前に妻を亡くし、息子浩一(高良健吾)と2人で山村に暮らしている。毎日山に入り樹木の伐採を生業としている木こりだ。ある日、克彦が仕事をしている山で、映画の撮影が始まる。スタッフの中に、精力的に働く助監督(古舘寛治)とは対照的に、ぼーっとして、引っ込み思案で、ロクに仕事をしていなさそうな若者がいる。それが、25歳の映画監督田辺幸一と克彦の出会いだった。強引な助監督に請われるままに、克彦は映画のエキストラとしてゾンビ役を引き受けることになる。噛み合いそうもないこの2人が、だんだんと心を通わせるようになる。

役所広司と小栗旬という意外そうな組み合わせがとてもよい。役所は、克彦というキャラクターを、よくあるいかにも無骨で一徹な仕事人という風には演じず、正直で真面目だけれども、楽しいことを楽しめる少年ぽさを残した初老の男として、とても魅力的な人物像を作り上げている。幸一はじれったいほど優柔不断な青年だが、バカなわけではなく、考えすぎなだけだ。この2人に共通の品の良さ(あるいはシャイな部分)があるところが、映画のトーンを決めている。

助監督や、カメラマン(嶋田久作)をはじめとして、まわりを取り巻く人々は、キャラが勝ちすぎず、節度のある人物像になっているのも好感が持てる。だからといって個性がないわけではないのだ。このあたりは、『南極料理人』で群像の描き方に巧みさを見せた沖田監督の得意とするところだろう。

あるシーンの結末に至る過程を見せずに、どうなるの?と思っているところへ、画面が切り替わって、結末がポンと提示される。このタイミングが実によくて好きだ。どこまで見せると効果的かという監督の判断が、私の好みにぴったりはまった。映画撮影の裏側が垣間見られるのも楽しい。気に入ったのはカメラマンの存在だ。きっとこういうカメラマンているのだろうなと思わせてくれる。嶋田久作の「撮るの?撮んないの?」という台詞の口調が、毎回少しずつ変わっていくのが注目に値する。スタッフ達がだんだん監督を愛するようになる様子が感じられて興味深い。細かい点で見所が多いのだが、どれも書いてしまうとネタバレになるので、やめておく。とてもオリジナリティーを感じる作品だったので、やっぱりオリジナル脚本はいいなと思えた。

(2012.2.22 ユナイテッド・シネマとしまえん にて)

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2012年02月20日

『セイジ 陸の魚』


監督:伊勢谷友介
原作:「セイジ」辻内智貴(筑摩書房/光文社文庫)
脚本:龜石太夏匡、伊勢谷友介、石田基紀
出演:西島秀俊、森山未來、裕木奈江/新井浩文、渋川清彦、滝藤健一/二階堂智/津川雅彦、ほか
2011年

伊勢谷監督の第一作目は見逃してしまったので、今度は見逃すまいと公開二日目に行ってきた。俳優陣もただ者ではない人々が揃っているが、西島秀俊と新井浩文目当てだったと言うのが正直なところ。とても素敵な作品だった。絵がとにかく綺麗。男も女も風景も、監督がこう撮りたいのだろうなという気持ちが素直に伝わってくる映像だった。

大学4年の夏、就職も決まり、なんとなくダラダラしていた“僕”(森山未來)は自転車で旅行に出かける。都会を離れ、山間を走るうら寂しい国道で、車と軽い衝突事故を起こしたのをきっかけに、“僕”は営業しているのかいないのかわからないようなドライブインHOUSE475にたどり着く。そこの店主がセイジ(西島秀俊)、寡黙でほとんど笑顔を見せない男だ。こんな無愛想な店主のドライブインに客は来そうもないと一見思えるが、夜ともなれば地元の常連客が結構集まってくる。“僕”と衝突した車の持ち主カズオ(新井浩文)もそうだ。セイジは雇われ店主で、オーナーは翔子(裕木奈江)というちょっと魅力的な女性だ。謎めいたセイジに惹かれるものがあったのと、店の居心地のよさもあって、“僕”はHOUSE475にバイトとしてしばらく滞在することになる。しかし、この眠たげな町でとんでもない事件が起こる。

ストーリーは、それから10年経ち、社会人となった“僕”(二階堂智)の回想の形で展開してゆく。その回想とは質の異なるもうひとつの時間的操作がある。あるひとつのシーンを、別角度から(あるいは別の視点から)撮ったショットが、フラッシュバックとしてところどころに挟み込まれるのだ。もっと多くてもよいかなと思ったほど、これが印象的で面白かった。

伊勢谷監督が舞台挨拶で、見所は西島さんのボディだと言ったそうだが、それは真実だ。この世の欲望をすべて放棄したかに見えるセイジのひととなりを、西島のボディが体現している。限界まで絞った美しい肉体だ。裕木奈江は久しぶりに見た気がするが、そこはかとない色気は健在だ。津川雅彦のうまさには、やはり感嘆の念を覚える。年齢とともに、アクの強さの抜き方がどんどんうまくなっているような気がする。

全体としてはファンタジー色が少し濃すぎるような印象も受けた。さびれた地域のドライブインが舞台にしては、雰囲気がお洒落(道具立てがお洒落というわけではない)すぎていて、セイジの奥底に隠された秘密や、突如起こる恐ろしい事件さえ、あまりインパクトがない。そのために、エンディングのセイジの驚愕の行動の意味が迫ってこないのが残念だった。またHOUSE475に集う人々の人間模様も中途半端でもの足りない。ただの素敵な作品にしてしまうには惜しい原作(読んでいないが)だと思えるので、もう少し猥雑さや、泥臭さも欲しかったと思った。まあ、私の解釈不足かも知れないので、原作も読もうとebookを購入してしまった。

-----以下ネタバレのため白文字に-----

凶悪事件の犯人がセイジなのかと、一瞬勘違いしたが、そうではないらしい。なぜエンディングのセイジのあの行動が、少女を救うことになったのか、いまいち納得できない。凄惨な事件を目撃して心身に傷を負った少女が、同じような凄惨な場面を目にして覚醒するものだろうか。このあたりのニュアンスは、原作を読まないとわからないのかも知れない。

初めて出会った翔子の肢体を“僕”目線で捉えたカメラが艶めかしくてよかった。伊勢谷監督、もっと女性を撮ればよいのに。


(2012.2.19 テアトル新宿にて)

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2012年02月08日

『東京プレイボーイクラブ』


監督・脚本:奥田庸介
出演:大森南朋、光石研、臼田あさ美、淵上泰史、赤堀雅秋、三浦貴大、佐藤佐吉、浜崎茜、片倉わき、安藤聖、ほか
2011年

第16回釜山国際映画祭・アジアの窓部門や、第12回東京フィルメックス・コンペティション部門にも出品された作品。弱冠24歳にして強烈な迫力を持つ奥田監督自身も話題になった作品だ。ほぼ大森南朋目当てで観に行ったのだが、これが大変面白かった。

地元のスクラップ工場で働くアウトローな男・勝利(大森南朋)は、工場近隣住民といざこざを起こし、地元にいられなくなり、東京に流れてくる。頼る先は場末の繁華街で「東京プレイボーイクラブ」という名の怪しげなサロンを経営する、昔なじみの成吉(光石研)だ。勝利は転がり込んだ東京プレイボーイクラブで、またヤクザと一悶着を起こす。やっとの思いで出した店を守りたい成吉はヤクザと勝利の間に挟まれて、右往左往する。勝利の血の気の多さが、クラブのバイト従業員貴弘(淵上泰史)、その同棲相手のエリ子をも巻き込んだ事件の発端となる。絶体絶命の窮地に立たされた彼らの運命やいかに。

全編まったくダレることなく、見事な展開だ。ストーリー自体はとりわけこけおどしや仕掛けがあるわけでもなく、どちらかというと、社会から落ちこぼれた人々にありがちな話を描いているのだが、既視感や陳腐な印象は皆無で、ぐんぐん引き込まれる。緩急のつけ方も巧みで、リアルからほんの少し耽美寄りな映像が、場末の雰囲気をそれらしく見せてくれる。なんということのない商店街を、レジ袋を下げた勝利が歩くシーン、それだけのことなのに、飽きずにずっと見ていたい気がするほどだ。

大森南朋はかっこ悪い男をかっこ悪く、だからこそ格好良く、本当に魅力的に演じている。かたや光石研は、堅気ぎりぎりのところで生きる小心者の男を、これまたドンピシャのはまり具合で演じている。この二人のスピード感あふれるやりとりが、しっかりとした柱を形成しているので、安心して見ていられる。この映画はディテールに遊び心があって、スピード感一点張りではないところが意外に大人っぽい印象を与える。本筋には関係なさそうな、クラブの女達3人の会話が実に面白い。3人を正面から映すカメラワークが洒落ていて、日本映画では珍しいのではないかと思った(ちょっとフランス映画的だと思ったのは私だけだろうか)。

エレファントカシマシの「パワー・イン・ザ・ワールド」にインスパイアされて奥田監督はオリジナル脚本を書いたそうだが、確かにこの曲のビートが映画全体のテイストを決めており、映像に躍動感が漲っている。挿入される音楽そのものもすべてよかった。

小さな劇場で上映される作品は、面白そうかなと思っても、肩すかしをくらうことが多いのだが、これは文句なくノリの良い楽しめる作品だった。エンディングは、いかにも若い監督らしいちょっとジンとくるシーンだ。

-----以下ネタバレのため白文字に-----

裸に水玉模様エプロンの大森南朋は、この映画の白眉だろう。この内容の作品にこんなシーンを絡ませるなんて、奥田監督はただ者ではないなと強く思った。こんな町の商店街なら、こんなエプロンしか売っていないことが、本当にありそうだ。バカな女が『人間失格』を読むとか、お腹の中で笑えるシーンがたくさんある。

(2012.2.7 ユーロスペースにて)

映画公式サイト
posted by すいっち at 01:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする