2012年12月27日

『グッモーエビアン!』

監督・脚本:山本透
脚本:鈴木謙一
原作:吉川トリコ『グッモーエビアン!』(新潮文庫刊)
出演:麻生久美子、大泉洋、三吉彩花、能年玲奈、竹村哲(SNAIL RAMP)、MAH(SHAKALABBITS)、塚地武雅、小池栄子、土屋アンナ(特別出演)ほか
2012年

予告篇を見て、麻生久美子のギタリストぶりがあまりに格好いいので、ストーリーにはさほど惹かれなかったが観に行ってきた。前の上映会が終わるころにロビーへ行くと、ドアが閉まっていても、大音量のロックが流れてくる。それを聞いて、ああエンディングはライブシーンなのかなと楽しみになる。テアトル新宿のロビーには、麻生久美子が実際に使用したグレッチのギターと衣装(カラフルなカーディガン、Tシャツ、ジーンズ)と大泉洋が着用した衣装が展示されている。だいたい想像通りの作品だったが、麻生久美子のはまりっぷりは、またもや想像を超えていた。やっぱりすごい女優さんだ。

アキ(麻生久美子)は元パンクバンドのギタリスト。17歳で娘を産み、ずっとひとりで子育てをしたきた。娘のハツキ(三吉彩花)は15歳の中学生。以前二人と同居していたバンドのヴォーカリスト・ヤグ(大泉洋)が、放浪の旅から帰国し、再び三人の同居生活が始まる。以前は仲の良かった三人だが、少し大人になりかけているハツキはことあるごとにヤグとぶつかるようになる。生き方そのものがロックなアキと、自由人のヤグ、そして思春期まっただ中のハツキとの融和点は見つかるのだろうか。

テンポがよかったので、飽きることなく観られたが、構成はイマイチかなという気がする。せっかく麻生久美子にギターを弾かせたのだから(要求が高度だったので、かなり麻生は練習を積んだそうだ)、音楽に関連するシーンをもっとはさんで欲しかった気がする。それがないと、単なるファミリードラマっぽい要素と、学園ものの要素が目立ってしまい、つまらなくなってしまう。エンディングで一気に盛り上げようとしたのだろうが、いかにももったいない。それほど、ライブのシーンは良かった。麻生のギタリストぶりは脱帽だ。私もギターを弾いていたので、あれだけ格好良く弾くのがいかに大変か、弾きながら歌うのがいかに難しいかは理解しているつもりだ。ギターのテクニックのことではなく、弾くときの姿勢や視線、動き方などが、実に堂に入っている。涼しい顔で、まさに10年前からギターを弾いていますと言わんばかりの自然なプレイで、本当にたいした女優さんだと、またまた再認識させられた。そして大泉洋も、このライブのシーンが一番良かった。普通のシーンでの大泉洋は、どうもしっくり来ない。あっけらかんとした自由人の雰囲気が見えて来ないのである。うわべを面白可笑しく見せているだけで、隠された生真面目で暗そうな本質が透けてみえると言ったら失礼だろうか。主演二人に力量の差があり過ぎるような気がする。

テレビドラマ「熱海の捜査官」で初めて知った三吉彩花は、ずいぶん大人っぽくなった。悪くはなかったが、ちょっと硬さを感じる。全編彼女の視点で描かれているのに、心の動きがあまり前面に出てこないのだ。それに対し、ハツキの親友を演じた能年玲奈はかなり良かった。ハツキと対照的な女の子を的確に演じることによって、三吉を盛り立てていたと思う。

(2012.12.25 テアトル新宿にて)

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2012年12月23日

『のぼうの城』(2回目の鑑賞)

原作を読んだ夫が観に行きたいと言い、『のぼうの城』なら2度観てもよいと思ったので、つき合った。筋がわかっているにもかかわらず、145分という上映時間も長くは感じず、2度目もやはり面白かった。

成田長親(野村萬斎)をはじめとする忍城の武将たちの人間模様が一番の魅力で、原作でのここの面白さがきちんと生かされている。そして秀吉側の石田三成が水攻めを決意するに至るいきさつも、丁寧に描かれている。北条氏の小田原城が陥落し、忍城の開城要求のためにやってきた石田三成が「よき戦いでござった」と告げる言葉が象徴しているように、この戦いは暗いところがない。実際の戦闘では悲惨なことが数多く存在するわけだが、数を頼んで弱者を踏みつぶそうとする豊臣側に憤りを覚え、板東武者の勇猛さを目にもの見せてくれようと奮い立つ男たちを明るいタッチで描いているので、鑑賞後の気分が爽やかなのである。小さな城、数少ない武将たちだからこその結束力は、現代の頑張る中小企業のあり方にも通じるので、共感を覚える人は多いだろう。

今回は少し辛口の感想も書こうと思う。時代劇のうまい俳優が、本当にうまい俳優と言っていいのかどうかは自信がないが、時代劇に合っている俳優とそうでない俳優がいることは確かだろうと思う。この作品での佐藤浩市の存在はやはり大きい。彼が全体を引き締めているのは、身のこなしや表情ももちろんあるが、特に時代劇にマッチングした台詞回しの巧みさゆえだとも思う。単純に言って聞きやすいのである。その意味では、野村萬斎や市村正親はもちろん発声がきちんとしているから、問題はない。また、時代劇の経験豊富な平泉成、夏八木薫、前田吟、西村雅彦あたりも安心して見ていられる。気になったのは山田孝之と山口智充だ。現代劇の山田は好きな俳優だが、どうもあの台詞のテンポとイントネーションが時代劇にそぐわず、非常に聞き取りにくい。文の最後に加速度がついて、早口になってしまう印象がある。山口は勇猛な武将なはずなのに、外見とは裏腹にまったく迫力が感じられない。芸人さんにありがちな、つるつるした喋り方のせいではないかと思う(大河ドラマ「新選組!」のときも同じことを感じた)。

大河ドラマ「江」のときは、さほど印象に残らなかったが、この作品での鈴木保奈美はよかった。引き眉のメイクも迫力があったし、台詞回しも気に入った。やはり時代劇はある程度演じる側の年齢層が高くないと、それらしさが出ないということだろうか。そういう見方からすれば、上地雄輔は意外にも悪くなかったし、石田三成という重要人物を演じる力量があったかどうかは別にして、時代劇でもそう違和感がなかった。

(2012.12.21 ユナイテッド・シネマとしまえん にて)
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2012年12月15日

『もうひとりのシェイクスピア』試写会

監督:ローランド・エメリッヒ
脚本:ジョン・オーロフ
出演:リス・エヴァンス、ヴァネッサ・レッドグレイヴ、ジョエリー・リチャードソン、デヴィッド・シューリス、ゼイヴィア・サミュエル、セバスチェン・アルメストロ、レイフ・スポール、エドワード・ホッグ、ジェイミー・キャンベル・バウアー、デレク・ジャコビ、ほか
原題:ANONYMOUS
2011年イギリス

エメリッヒ監督作品は実のところ観たことがなかった。SF大作系の映画にあまり興味がなかったからである。だから今作は、テーマがシェイクスピアと知り、観たくて試写会に応募してから、監督がエメリッヒだと気づいたというお粗末。正直エメリッヒとシェイクスピアという組み合わせは、予想外だった。期待と不安が半ばする気持ちで鑑賞したが、観終わって思わず拍手したくなるほど、抜群に面白い作品だった。

今なお真相が明らかでないシェイクスピア別人説の中でも、もっとも有力とされるオックスフォード伯を、戯曲やソネットの真の著者だという前提で描いた作品である。学的には別人説は否定されているが、こうもあり得たかもしれないという視点で描かれた物語は、エリザベス朝の政治や権力争いの渦に否応なく巻き込まれた人物たちと、生きる証ともいえる“書くこと”への情熱と、秘められた愛憎劇が交錯し、波瀾万丈でわくわくさせるものになっている。歴史ミステリーと一言でいってしまっては物足りない。すべての要素が高度に融合・調和した作品であり、私にとって、こういった感動の仕方は、『薔薇の名前』以来と言ってもよいかも知れない。

16世紀末、詩人・劇作家として名高い貴族がいた。第十七代オックスフォード伯エドワード・ド・ヴィアである。シェイクスピア作とされる数々の著作は、すべてエドワードが真の作者であった。だが、彼が真実を隠さなければならなかったのは何故なのか。

冒頭から身を乗り出してしまうほど見事な導入部だ。現代の語り手が劇場の舞台に現れ、物語の幕開けを告げる。そして、場面は一転してエリザベス一世統治時代のロンドン。一人の若者が捕えられ尋問を受ける。「オックスフォード伯エドワード・ド・ヴィアがお前に渡した作品はどこにある?」と。若者は劇作家ベン・ジョンソンだった。彼とエドワードとはどのような繋がりがあるのか?またシェイクスピアとは誰なのか?

徹底した時代考証がまず目を引く。ロンドンの街並み、劇場のたたずまい、庶民の服装、王侯貴族たちの服装や部屋の調度、劇作が書かれた紙とそれを覆う帙など、その時代やその国に生きていたわけではないのに、すべてがリアルに思える。とりわけ、エリザベスの衣装には感激した。きらびやかというのではなく、重厚で、素晴らしい質感がある。

上演されるシェイクスピア劇の数々。それぞれがわずかな時間だが、手抜きのない贅沢な劇中劇で、「夏の夜の夢」など本当に惹きこまれてしまった。ロンドンの町の劇場を見ていると、演劇が庶民の娯楽であったことがよくわかる。

エドワードにとって、自身の内面から迸り出る、書きたいという衝動がいかに強いものか、彼にとって、言葉を紡ぐことがいかに崇高な行為か、それがスクリーンから伝わってきて、ほとんど泣きそうになった。

キャストはすべて満足だが、年老いたエリザベスを演じたヴァネッサ・レッドグレイヴが、とにかく桁外れに見事。若きエリザベスを演じたジョエリー・リチャードソンとは、実の母娘だったと後で知ったが、それも絶妙なキャスティングだった。

(2012.12.13 一ツ橋ホールにて)

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2012年12月08日

『カラスの親指』

監督・脚本:伊藤匡史
原作:道尾秀介『カラスの親指 by rule of CROW's thumb』(講談社文庫)
出演:阿部寛、村上ショージ、石原さとみ、能年玲奈、小柳友、ベンガル、ユースケ・サンタマリア、戸次重幸、なだぎ武、上田耕一、古坂大魔王、鶴見辰吾、ほか
2012年

チラシをもらってあったものの、それほど積極的に観たいとは思わなかったのだが、時間があいて、何か観ようと探したところ、この作品がもっとも場所と時間とが都合良かったので、観に行って来た。鑑賞中に大きな地震があり、後半はやや映画に集中できなかった。と言っても、館内放送があるでもなく、係員による誘導もなかったので、震度4程度では問題なしということなのだろう。

このところ、出演作が目白押しの阿部寛が主演。わけあってプロの詐欺師になったタケこと竹沢武夫を演じる。タケは年上だが新米のテツ(村上ショージ)とコンビを組んで、凝った詐欺をおこなって日銭を稼いでいる。ちょっとしたいきさつから、彼らの暮らすアパートに、若い姉妹、河合やひろ(石原さとみ)と、まひろ(能年玲奈)、やひろのボーイフレンドの石屋貫太郎(小柳友)が転がり込んでくる。しかし、タケの周囲にはなんとなく不穏な空気が漂っていて、どうもタケは何者かに狙われているかに見える。5人の共同生活はどうなって行くのか。詐欺は永遠に続くのか。

ほとんど原作通りの出来だそうだが、どうにもタイミングの悪い、間の悪い映画だなと思った。サスペンス系人間ドラマで、騙したり騙されたり、観客に肩すかしを食わせたりというのがポイントとなるはずだが、やや間延びしているために、観客にたっぷり考える時間を与えてしまう。もっと畳みかけるようにストーリーが運ばないと、伏線が見え見えだし、まったくストーリーを知らない私でも、容易に筋が読めてしまう。冒頭はなかなか面白かったので、もったいないと感じる。編集をもっと凝らないと、まるでテレビの2時間ドラマと同じだ。そして、タケの相棒テツを演じる村上ショージが、さすがに無理があると思った。うまい俳優さんたちの中に混じると、不自然さが際だってしまい、これを本職の俳優さんが演じたら、全体がもっと締まったものになったのにと、勝手なことを考える。

収穫はあった。石原さとみである。登場したときは誰だかわからず、そういえばチラシに石原さとみが写っていたから彼女か!とようやく納得するくらい、これまでのイメージと異なっている。不思議系の女の子を巧みに演じていて感心した。

(2012.12.7 ユナイテッド・シネマとしまえん にて)

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以下ネタバレあり
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2012年12月01日

『砂漠でサーモン・フィッシング』試写会

監督:ラッセ・ハルストレム
原作:ポール・トーディ「イエメンで鮭釣りを」(白水社刊)
脚本:サイモン・ビューフォイ
出演:ユアン・マクレガー、エミリー・ブラント、クリスティン・スコット・トーマス、アマール・ワケド、トム・マイソン、ほか
原題:SALMON FISHING IN THE YEMEN
2011年イギリス

面白そうなテーマに惹かれて、試写会に応募したところ当選し、昨日行って来た。ほぼ予想通りの作品だったと言ってもよいだろう。イギリスらしいシニカルさの混じったユーモアが特徴の映画だった。

さえない水産学者アルフレッド・ジョーンズ博士(ユアン・マクレガー)の元に1通のメールが届く。差出人はハリエット・チェトウォド=タルボット(エミリー・ブラント)、イエメンの富豪シャイフの代理人である。砂漠の国イエメンに川を作り、鮭を釣りたいので協力をという依頼であった。荒唐無稽な話として、依頼を一蹴したジョーンズだったが、一件を漏れ伝え聞いた首相の広報官パトリシア・マクスウェル(クリスティン・スコット・トーマス)は、この件が首相の支持率に好影響を与えると乗り気になり、結局国家プロジェクトにまで発展してしまう。不可能に思えるこのプロジェクトの行方はどうなるのか。つきあい始めたばかりの兵士の恋人が戦地で行方不明になってしまったハリエットと、妻との関係がぎくしゃくし始めたジョーンズの間の友情関係はどうなるのか。

なんといっても、パトリシアのキャラクターが最高に楽しい。首相広報官として機関銃のように喋りまくり、家庭ではたくさんの子供の母親としてこれまた口うるさく、一時もじっとしていることのない行動的な女性だ。この作品の前にクリスティン・スコット・トーマスを観たのは昨冬の『サラの鍵』だったから、そのギャップの凄さに感動する。だが、彼女の少し険のある顔立ちは、こういうコメディータッチの作品のほうが似合うような気もする。

脚本家は、かの『スラムドッグ$ミリオネア』を書いた人だから、期待できると思っていたのだが、どうもパトリシア以外の人物像が印象に残らないし、描き方も甚だ物足りない。ジョーンズもハリエットも魅力的に見えないのだ。そもそも、いやしくも水産学者なら、もう少しインテリに見えるはずだと思うので、ユアン・マクレガーではピンと来ない。面白かったのは、パトリシアの周辺だけで、首相とのLINE風のチャット会話などは秀逸だと思うが、肝心の砂漠に水を引く大事業のほうは、その大がかりなはずのプロジェクトが伝わってこない。ジョーンズが何に寄与したのか思い出せないほどだ。ディテールは洒落ているのに、全体がぼやけた印象の作品だと思った。ジョーンズ博士、絵はうまかった!

(2012.11.29 よみうりホールにて)

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