2013年07月28日

『終戦のエンペラー』

監督:ピーター・ウェーバー
原作:岡本嗣郎『陛下をお救いなさいまし』(集英社刊)
脚本:デヴィッド・クラス、ヴェラ・ブラシ、
出演:マシュー・フォックス、トミー・リー・ジョーンズ、初音映莉子、西田敏行、羽田昌義、火野正平、中村雅俊、夏八木勲、桃井かおり、伊武雅刀、片岡孝太郎、ほか
原題:EMPEROR
2012年アメリカ

公開初日の朝イチで観に行くことができたが、大変重厚で緊迫感のある作品だった。これがアメリカ映画だということが意外なほど、日本側の描き方に違和感がないし、日本人の配役が素晴らしい。やはり日本側プロデューサーに奈良橋陽子、野村祐人がいるということが大きかったのだろう。

1945年、太平洋戦争が終結し、アメリカのマッカーサー元帥(トミー・リー・ジョーンズ)が厚木海軍飛行場に降り立つ。マッカーサーは腹心のフェラーズ准将(マシュー・フォックス)に、戦争の真の責任者を探せという極秘命令を下す。アメリカで学生だった時に日本人女性アヤ(初音映莉子)という恋人がおり、日本文化に詳しいフェラーズだったが、任務は困難を極めた。限られた日時のなかで、日本の政府要人たちや、天皇(片岡孝太郎)の側近たちを調べても、天皇に戦争責任があるか否かの証拠には到達できない。容易に理解できない日本における天皇という存在に翻弄されながらも、フェラーズはひとつひとつの謎を解き明かしてゆく。そこに、連合国側の思惑、マッカーサー自身の野望が絡み合い、物語は複雑な側面を見せる。かの有名な、昭和天皇とマッカーサーの並んだ写真に至るまでには、どのようないきさつがあったのか。日本の戦後の運命を方向づけたものは何だったのか。

日本の敗戦を決定的にしたキノコ雲の映像に、冒頭から胸が苦しくなる。そして大空襲で焼け野原になった東京。戦争の生々しい爪痕が再現される。この国をこんな風にしてしまった責任はいったいどこにあるのかと、GHQでなくても思う。徹底的な考証と、日本人のメンタリティーをきちんと理解した脚本とで、日本人から見たリアリティーが感じられる。もちろん戦争体験者が見たとしたら、我々年代とはまた違った感想があるのだろうが、少なくとも、外国映画の中に登場する変な日本人や、デフォルメされた日本、といった要素はいっさいない。むしろ、要人たちを演ずる日本人俳優のあまりの立派さに、本当にこれほど誇り高い人たちばかりだったのだろうかと疑念が生じるほどだ。

フェラーズとアヤとのラブストーリーを除いては、ほぼ実話であるそうだ。ポツダム宣言受諾やGHQによる占領、宮城事件、玉音放送など、断片的に知識はあるが、この映画ではフェラーズが戦争の責任者をつきとめてゆくというストーリーになっているので、これらのことがうまく繋がって、歴史的な理解を深めてくれる。それと同時に、一種の謎解きにも似たサスペンス感も確かにある。

今作では、登場シーンは少ないが重要な役を演ずる俳優たちが素晴らしかった。火野正平(=東條英機)、中村雅俊(=近衛文麿)、伊武雅刀(=木戸幸一)、夏八木勲(=関屋貞三郎)、片岡孝太郎(=昭和天皇)らである。とりわけ夏八木は、体調の悪さなどみじんも感じさせず品のある宮内次官そのもので、胸が熱くなった。片岡の天皇はため息が出るほど見事だった。歌舞伎役者さんというのは、高貴な役を演じるのに実にうってつけだといつも思う。身のこなしの美しさが備わっているからに他ならない。台詞は少なかったが、天皇が発する一言「関屋」が素晴らしく、心に響いた。女優陣では、鹿島大将婦人を演じた桃井かおりがさすがだ。これだけ英語をうまく日本人の感情に乗せることのできる人はそういないだろう。彼女の“Welcome”にはゾクッとした。

もちろん、トミー・リー・ジョーンズの存在感は、この作品には欠かせないものだった。マッカーサーという人物を深く理解し、威厳と頭の回転の良さとユーモラスな部分とを併せ持った人間像を見事に作り上げ、真っ直ぐな性格のフェラーズを演じるマシュー・フォックスと、良いコントラストを見せてくれた。

個人的には、フェラーズとアヤの恋愛部分はあまり必要性を感じなかった。注目株らしい初音映莉子がどうもピンと来なかったからかも知れない。表現しにくいのだが、外国人が好むタイプの日本人女優というイメージに見え、他の自然な人たちの中で浮いた印象を受けたのだ。

若い人たちの好みを聞くと、戦争を扱った映画は嫌いという意見が多いのだが、日本はこういう時代を経て現在に至っているのだと、やはり知ってもらいたいし、歴史サスペンスとしても楽しめる作品なので、観て損はないと思う。

(2013.7.27 ユナイテッド・シネマとしまえん にて)

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2013年07月25日

『シャニダールの花』

監督:石井岳龍
脚本:じんのひろあき、石井岳龍、田中智章
出演:綾野剛、黒木華、刈谷友衣子、山下リオ、古館賢治、伊藤歩、ほか
英題:The Flower of Shanidar
2012年

人の胸に美しい花が咲くという摩訶不思議な設定に、どのようなテイストの作品なのか、面白いのか面白くないのか見当がつかなかったが、大変面白い映画だった。ある程度期待のほうが上回っていたのは、もちろん石井岳龍監督作品であることと、そして現在注目度の高い綾野剛と黒木華の共演であることが理由だ。ラブストーリーではあるのだが、花の持つエロティシズムや不気味さ、それに翻弄される人間たちを描いて、ミステリーの要素もある。女性が花を育むことは、子宮に子供を宿すことにも似て、母性の極とも言えるだろう。女性の本能的な強さや包容力も感じられて、スリリングでありながら、陶酔感も覚える作品だった。

大瀧賢治(綾野剛)はシャニダール研究所に勤務する植物学者。ごく少数の若い女性の胸に芽吹いた花を育て、満開の理想的な状態になったところで摘み取れるように管理する仕事をしている。この花から採取された成分は画期的な薬効を持つことから、高額での取引ができるのだ。ある日、研究所にセラピストの美月響子(黒木華)が赴任し、大瀧の補佐をすることになる。二人はいつしか惹かれ合って行くが、花を採取された女性が相次いで謎の死を遂げ、大瀧の心に研究所に対する不信感が芽生える。響子は、花の魅力にだんだん取り憑かれて行き、二人の運命が軋み始める。

『舟を編む』のときから、黒木華のことはうまい女優さんだと思っていたが、今作ではがらっと印象を変え、ほんわりした中に強さを持つ響子という人物を好演している。響子はいつも仄かに微笑んでいるが、それは何かしら菩薩のような人を包み込む暖かさのある微笑みで、こういう表情は他の女優さんではなかなか出せないのではないかと思う。一方、大瀧は常にピリピリしているような印象のある青年で、この二人のコントラストが良い。ストーリーはほとんどシャニダール研究所内で展開するのだが、その無機質な空間で、二人と何人かの提供者との心理戦のような人間模様が描かれ、まったく飽きることがない。女性の多い映画だが、その中で存在感を見せる所長役の古館賢治もよかった。

(2013.7.24 テアトル新宿にて)

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2013年07月21日

『コン・ティキ』

監督:ヨアヒム・ローニング、エスペン・サンドベリ
原作:トール・ヘイエルダール著「コン・ティキ号探検記」(河出文庫)、ハイエルダール著「コンチキ号漂流記」(偕成社)
脚本:ペッター・スカヴラン
出演:ポール・スヴェーレ・ヴァルハイム・ハーゲン、アンダース・バースモー・クリスチャンセン、ヤコブ・オフテブロ、トビアス・サンテルマン、オッド・マグナス・ウィリアムソン、グスタフ・スカルスガルド、アグネス・キッテルセン、ほか
原題:Kon-Tiki
2012年イギリス・ノルウェー・デンマーク・ドイツ合作

子供の頃、この原作をいったい何度読み返したことだろう。冒険譚はもともと好きだったが、まずこの物語は事実であるということが最大の魅力だった。その原作が映画化されたと知り(1951年にはドキュメンタリー映画が公開されている)、必ず観ようと決めていた。第70回ゴールデン・グローブ賞や第85回アカデミー賞の外国語映画賞にノミネートされた作品だということで大いに期待していたが、まさしく原作を読んだときのワクワク感が甦ってくる素敵な映画だった。

ノルウェーの若き人類学者、トール・ヘイエルダールは、ポリネシア人のルーツがインカ帝国時代の南米人にあるという学説を立て、それを実証するために、古代と同じ材料で筏を作り、ペルーを出発し、動力も舵もない状態で海流に乗り、約8千kmもの距離をポリネシアまで漂流するという無謀な冒険に乗り出す。映画は、この冒険の企画段階から、筏がポリネシアの珊瑚礁に漂着するまでを描く。

ともかく圧倒的なスケールのロケだ。海の広大さ、激しさ、美しさが、ドキュメンタリーのように迫ってくる。360度見回しても、見えるものといったらすべて海。そんな中で、ちっぽけな筏に乗った5人の男たちの織りなす人間模様も見どころだ。後世の尊敬を集めているトール・ヘイエルダール(ポール・スヴェーレ・ヴァルハイム・ハーゲン)がまず良い。自説の証明に執念を燃やす学者としての一面と、幼い頃からの目立ちたがりの冒険家魂とを併せ持つ男だ。彼の口癖は「私を信じろ」。簡単なようで、なかなか言える言葉ではない。辛い航海を続けるにつれて、5人それぞれの性格がむき出しになってゆき、たびたび衝突も起こる。ここが、筏での漂流そのもの以上にスリリングでもあり、フィクションでもなかなかこううまくは人間を描けないだろうと思うほどだ。北欧の俳優さんたちにはまったく詳しくないが、どの人もとても良かった。映画チラシには、本物の当時のクルーの写真(イケメン揃いで驚く!)が載っているが、面差しの似通った俳優を起用したと思えるほど、皆ぴったりのイメージだ。100日に及ぶ航海であるから、彼らはどんどん日焼けし、髪も髭も伸び放題になる。髭は本物なのか付け髭なのかわからなかったが、全員似たような髭の状態になるので、可笑しかった。北欧の男性は皆ああいう風に縮れた髭になるのだろうか。

私が原作を読んだときに一番印象に残ったのは、バルサで筏を組み立てるというくだりだったので、この筏製作過程をもうちょっと描いてくれたらなあと思った。ほとんど男たちは裸のシーンが多いのだが、それでも1940年代当時の町並みや服装も見られて楽しい。英語もきわめてわかりやすいものだった。

我が家から一番近い上映館が角川シネマ新宿だったので、そこへ行ったのだが、もうちょっと大きいスクリーンで海の広大さを満喫したかったなと思う。

(2013.7.20 角川シネマ新宿にて)

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以下ネタバレあり
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2013年07月13日

『ノーコメントbyゲンスブール』試写会

監督:ピエール=アンリ・サルファティ
出演:セルジュ・ゲンスブール、ジェーン・バーキン、シャルロット・ゲンスブール、ジュリエット・グレコ、ブリジット・バルド−、アンナ・カリーナ、エディット・ピアフ、ヴァネッサ・パラディ、ほか
原題:Gainsbourg by Gainsbourg: An Intimate Self-Portrait
仏題:Je suis venu vous dire...
2011年フランス

『3人のアンヌ』を見たあとの試写会はこれだった。作詞作曲家、シンガー、画家、映画監督、小説家、カメラマンと多彩な面を持つフランスの芸術的知性の極ともいえるセルジュ・ゲンスブール(1928.4.2-1991.3.2)の、20歳から60歳までの40年間を、ほとんど彼自身のコメントのみによって構成したドキュメンタリー映画である。私自身はゲンスブールについては、ジェーン・バーキンとのかの有名なデュエット曲"Je T'aime... Moi Non Plus"を思い出すくらいで、さほど詳しくはなかった。だから、この曲が元はブリジット・バルドーのために書かれたもので、バルドーと録音もしたことなどは全く知らず、このドキュメンタリーで初めて知ったのである。

ドキュメンタリーは説明的なところはまったくなく、決して多くはない彼の既公開や未公開の発言に、当時の映像を重ね合わせている。ほぼ時間軸に沿ってはいるものの、ゲンスブールについて何の知識もない人が見ると、わかりにくいかも知れない。しかし、ゲンスブールってこんなに素敵な存在だったのだと再認識させられるには十分だった。とりわけ、彼の歌声もたくさん聞けるし、彼と関わった女たちの可愛さといったらない。バルドーとのデュエットはバルドーが33歳のとき、バーキンとのデュエット曲が発表されたのは、バーキンが23歳のときだが、この時代の女性たちの大人の魅力はため息がでるほどだ。ギャル文化真っ盛り、"可愛い"がすべてを決まる現代日本に、こういう女性たちはほとんど存在しない。もちろん、草食系男子がもてはやされる現代にあっては、ゲンスブールのような男臭い存在も時代遅れだろうが、ただ女たらしだというのではなく、溢れるほどの才能を持ち、その時その時で対象の女性に惚れ抜く彼の姿を見ていると、成熟した男の魅力がどういうものなのかを思い知らされる。

ゲンスブールは彼自身のルーツについて語ってもいる。とりわけ父との関係は愛憎半ばするもので、生涯彼の頭から離れなかったことが読み取れる。男性との交友関係がまったく出て来ないことも、ある意味興味深い。

この作品はドキュメンタリー臭さをまったく感じさせずにゲンスブールの魅力を見せつけてくれるという点で、本当に楽しいものだった。99分の間、実に幸せな時間をもらえる作品だと思った。

(2013.7.11 UPLINKにて)

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『3人のアンヌ』

監督・脚本:ホン・サンス
出演:イザベル・ユペール、ユ・ジュンサン、チョン・ユミ、ユン・ヨジュン、ムン・ソリ、クォン・ヘヒョ、ムン・ソングン、ほか
原題:다른 나라에서
英題:In Another Country
2012年韓国

夕方の試写会に行くまでに珍しく時間があいてしまい、新宿か渋谷で何か観ようと各劇場のスケジュールを確認したところ、この作品がちょうどうまい時間に始まることがわかったので、事前情報ほとんどなしで観に行った。2012年カンヌ国際映画祭のコンペ作品であり、2012年東京フィルメックスのオープニング作品だったことは後から知った。

ほぼ同じような登場人物だが、少しずつ設定の異なる3つの物語を、描いた作品である。韓国の海辺を舞台に、イザベル・ユペールがアンヌという女性を演じるが、3つの物語のそれぞれに、異なるアンヌが登場する。青いシャツのアンヌは映画監督で、友人の韓国人監督に誘われて、ヴァカンスを過ごしに韓国へやってくる。赤いワンピースのアンヌは、浮気中の人妻で、浮気相手の韓国人映画監督と週末を過ごすために海辺を訪れる。そして緑のワンピースのアンヌは離婚したばかりの女性で、友人の韓国人民俗学者と傷心を癒やすための旅行で海辺にやってくる。どの話にも、ライフガードとして海辺に寝泊まりする若い韓国人の青年(ユ・ジュンサン)が登場し、片言の英語でアンヌと話す。

残念ながら、私にはこの作品はまったく面白くなかった。少しずつ設定を変えて3つの物語を語るという構成自体は面白く、ひとつの"もの"を、物語ごとに別の視点から見る趣向も悪くはないのだが、ともかく一つ一つの話がどれもパッとしない。海辺と言っても、印象的な美しい景色があるわけでもなく、ライフガードの青年が、アジア人が欧米女性に抱きがちな憧れとコンプレックスをあまりにもあからさまにに表現しているので、見ていて恥ずかしくなってくる。イザベル・ユペールもこういったゆるい印象の作品は似合わない気がする。それにいくら何でもライフガードと年齢の開きがありすぎる。

(2013.7.10 シネマート新宿にて)

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2013年07月06日

『ベルリンファイル』

監督・脚本:リュ・スンアン
武術監督:チョン・ドゥホン
出演:ハ・ジョンウ、ハン・ソッキュ、チョン・ジヒョン、リュ・スンボム、イ・ギョンヨン、ほか
原題:베를린(ベルリン)
英題:The Berlin File
2013年韓国

ハ・ジョンウ見たさに試写会に行って来た。今年の初めに韓国で公開され、大ヒットとなった作品である。偶然か必然か、韓国映画は宣伝文句や前評判に惹かれて観に行って、期待を裏切られることがほとんどない。俳優の知名度が高い日本映画と異なり、いくら韓国で実力派俳優と評価が確定している人たちが出演していても、一部ファンを除いて、俳優で客が呼べるとは限らないために、本当に面白い映画を紹介しなくてはという配給会社の必死さの賜物ではないかという気もする。もちろん、日本映画の配給会社がぬくぬくとしていると言うつもりはないが、日本映画の場合は宣伝文句や口コミなどを信じて観に行くと、自分にとって当たり外れが五分五分といったところなのも事実なのだ。

ベルリンを舞台に、韓国・北朝鮮・ロシア・アラブ・CIAが入り乱れてのスパイアクションということで、人物関係の複雑さについていけるかどうかやや心配があったため、公式サイトの人物相関図だけ頭にたたき込んで試写に臨んだ。けれども、心配は杞憂に終わった。確かに複雑ではあるものの、人物関係は無理なくほどよく整理され、誰が敵か味方かわからない波瀾万丈の物語にもかかわらず、核がぶれることはなかった。

北朝鮮秘密諜報員ジョンソン(ハ・ジョンウ)は、その経歴の不明さから韓国側からは“ゴースト”と呼ばれている男。ジョンソンはベルリンでアラブ組織との武器取引をおこなうが、その情報が南側に漏れ、取引成立寸前に韓国国家情報員ジンス(ハン・ソッキュ)に捕らえられそうになり、すんでのところで逃げおおせる。しかしなぜトップシークレットであるこの取引情報が南に漏れたのか。新たにベルリンに送り込まれてきた北朝鮮保安観察員ミョンス(リュ・スンボム)の証言によれば、なんとジョンソンの妻、ジョンヒ(チョン・ジヒョン)に二重スパイの容疑がかけられているという。国家への忠誠心と妻への愛情と疑念の間で苦悩するジョンソン。だが、彼自身も実は大きな陰謀の渦に巻き込まれているのだった。

東西冷戦の象徴であるベルリンでロケが行われたということが、この作品に与えたものは大きかっただろう。ベルリンの町並みをバックにしたストーリー展開は、オープニングの洒落た映像処理とともに、韓国映画という範疇に収まりきれないスケール感とスタイリッシュ感を生み出している。人物にしても、ジョンソンの上司であるベルリン駐在北朝鮮大使のリ・ハクス(イ・ギョンヨン)のコート姿はイギリスのスパイ映画に出てもおかしくないような渋い格好良さだ。

実力派キャストが集まっただけのことはある。ハ・ジョンウは予想通り役になりきっていて、北の諜報員でありながら一匹狼のテイストを併せ持つジョンソンという男を的確に演じている。彼のアクションの生々しさは独特だ。型にはまった決めポーズの綺麗なアクションというのではなく、本当に戦っていると錯覚させる迫力がある。韓国映画はいつもアクションシーンが素晴らしい。印象に残ったのは、ちょっと得体の知れない存在のミョンスを演じるリュ・スンボム。例えばフランスのヴァンサン・カッセルや、日本の香川照之が醸し出すような、癖のある嫌らしさを表現できる俳優さんだと思った。そして、チョン・ジヒョンの清楚な色気にも感激。韓国の女優さんはほとんど知らないので、あとで調べたところ、アジエンスのCMに出ていた方だとか。そのCMは記憶にあるが、今作ではガラッとイメージが異なる。

韓国映画でありながら、単純に北を悪者にして南が正義であるという描き方をしていないところが非常に面白かった。誰が騙しているのか、裏切ったのは誰か、最後まで手に汗握る展開で飽きさせないが、個人的には格闘のアクションはもっと少なくてもよかったのではないかと思う。アクションに頼らなくても十分見応えのある脚本だと思えるからである。スパイアクション面ばかり強調されているが、切ない人間模様もきちんと配し、そのバランスが優れていたように思う。

(2013.7.4 なかのZERO大ホールにて)

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