2013年08月31日

『クロワッサンで朝食を』

監督・脚本:イルマラ・ラーグ
共同脚本:アニエス・フォーヴル、リーズ・マシュブフ
出演:ジャンヌ・モロー、ライネ・マギ、パトリック・ビノー、ほか
原題:Une Estonienne à Paris
2012年フランス=エストニア=ベルギー

事前に口コミをちらっと見ると、高い評価と低い評価とが入り交じり、かなり意見の分かれる作品だということがわかった。実際に観てみて、私としては、かなり気に入った部類に入る作品だったので、観て良かったと思う。

中年女性アンヌ(ライネ・マギ)はエストニアで、高齢の母を看取ったばかり。これからのことをまだ何も考えられない状態の中、フランスのパリで家政婦をやらないかという仕事の話が舞い込む。迷ったが、パリは昔から憧れの街。新天地にほのかな期待を抱いてパリに行ったアンヌを待ち受けていたのは、高級アパルトマンに住む気位の高い老女フリーダ(ジャンヌ・モロー)。雇い主は、近くのカフェの店主ステファン(パトリック・ビノー)だが、フリーダとの関係は不明。フリーダは、家政婦などいらないと、最初からアンヌをはねつける。早くも挫折感を味わうアンヌだが、少しずつフリーダの好みや気持を推し量り、やがて打ち解けてゆく。しかし、アンヌの秘めた過去に触れたとたん、状況は一変した。

監督の体験を元に作られた実話なのだそうだが、頑固で孤独な老人と、周囲の人との関係を描くストーリーは近年とても多く、その設定自体はむしろ「またか」と思うほどだ。ただこの作品の特徴は、フリーダとアンヌの繋がりの推移を描くというよりも、フリーダの暮らし方(ひいてはパリという街の持つ力)を通して、アンヌの気持の微妙な変化を描いたもののように思える。まず、母親の死を目の当たりにしたアンヌの言いようのない表情。これが出色だ。このときにアンヌが感じた気持は、後にアンヌ自身の口から語られるが、本当に身につまされる。だが、物事を正しく認識できなくなっていた自身の母親と比べると、フリーダがいかに頑固で嫌みばかり言う老女でも、アンヌはむしろ救われていたに違いない。ただ受け入れてもらえないから仕方ないと思ったまでで、フリーダが嫌いで去ろうとしたのではないはずだ。

いっぽうフリーダの暮らしぶりは、彼女がフランス出身ではないにもかかわらず、極めてフランス的(パリ的?)で、単なる贅沢というのではないパリのエスプリを感じることができて興味深い。それは食習慣や服装といった外面にとどまらず、男性との関わり方にもあらわれている。

フランス語原題は「パリのエストニア人(女性)」という意味なので、「クロワッサンで朝食を」なんて、また例によって甘ったるく味付けしたものだと、邦題が最初はどうも気に入らなかった。ただ「エストニア」という国名は日本人にとってはイメージが湧きにくいし、パリの息吹を感じさせるという面にターゲットを絞って考え出されたタイトルなのかなと、やや納得し始めている。

アンヌ役のライネ・マギは本当によかった。癖のない真っ直ぐな金髪を無造作に束ねて、ほとんど化粧っ気もなく、それでも視線には人の心をとらえる強さがある。ジャンヌ・モローはジャンヌ・モロー以外の何者でもない。時には醜悪で、時には意地悪く、時には小悪魔的で、時には可愛らしく、変幻自在である。彼女の私物であるというファッションも見物だ。

アンヌが夜ごとパリの街を散歩するシーンも魅力のひとつだろう。夜のパリはまたひと味違った顔を見せてくれる。アンヌが特に気に入ったらしいエッフェル塔の撮り方は、アンヌを後押してくれるような力強さに満ちていた。

(2013.8.30 シネスイッチ銀座にて)

映画公式サイト
以下ネタバレあり
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2013年08月26日

『素敵な相棒―フランクじいさんとロボットヘルパー―』

監督:ジェイク・シュライヤー
脚本:クリストファー・D・フォード
出演:フランク・ランジェラ、スーザン・サランドン、ジェームズ・マースデン、リヴ・タイラー、ほか
原題:ROBOT & FRANK
2012年アメリカ

ロボットヘルパーという設定に興味を持ち、観に行った。この作品は、第28回(2012年)サンダンス映画祭で、優れた科学的内容を持つ作品に送られる“アルフレッド・P・スローン賞”を受賞している。インディペンデント映画ながら、日本でも鑑賞満足度はかなり高い。ほのぼの系のストーリーには違いないが、高齢者の気持ちに添った丁寧な脚本で、今日的な問題にも切り込んでいる。

物語の舞台はnear future、そう遠くない未来である。印象としては20年も先のことではない。元泥棒で、何度も服役経験のあるフランク(フランク・ランジェラ)は、高齢になり、物忘れもだんだんひどくなり、見当識がおぼつかないこともたまにあるが、一人暮らしをしている。することといえば、近所の図書館へ行って本を借りたり、顔なじみの司書ジェニファー(スーザン・サランドン)と世間話をしたりするのがせいぜい。成人した息子のハンター(ジェームズ・マースデン)は家庭を持ち、娘のマディソン(リヴ・タイラー)はジャーナリストで外国を飛び回っている。ある日、ハンターがフランクに超高性能の介護ロボットをプレゼントする。たびたび父親の面倒を見に来るのが困難な自分たちの代わりに、父親の健康管理と家事の補佐をさせるためなのだ。自分がまだひとりで日常生活を送る十分な能力があると思っているフランクは、介護ロボットなどごめんだと拒絶する。父親と言い争いになったハンターは、介護ロボットを受け入れるか、老人施設に入るかだ、と言い置いて帰る。お節介な介護ロボットに辟易したフランクだが、高度にプログラミングされたロボットの健康管理のおかげで、体調は好転し、気分も前向きになってゆく。何か趣味を持つべきだとロボットにアドバイスされたフランクは、自分の楽しみといえば、綿密な計画を立てて泥棒をすることだと思い出す。そして泥棒計画にロボットを巻き込んでゆく。

若い者の意見を聞かず頑固な老人というのはよくある設定だが、描き方は陳腐ではない。映画公式サイトには、フランクがロボットを受け入れないのは、ハイテクに嫌悪感を持っているからだという説明があるが、私はそうは取らなかった。フランクが拒否の態度を示すのは、自分の能力を否定された気がして、プライドが傷ついたからだと思えた。だから、これがロボットではなく、人間のヘルパーだったとしてもフランクの態度は同じだったに違いないと思える。そういう意味では、高齢者の感情のあり方をとてもよく理解した脚本だと感じた。

いつしかロボットはフランクの相棒という存在になるが、ロボットには最後まで名前がないところがウエット過ぎずによいと思う。感情を持たないロボットが、フランクのいろいろな発言に対してどのように答えるかが面白く、笑えるところでもある。フランクはだんだんロボットに感情移入してしまうが、ロボットはあくまでも機械に過ぎず、そこが切ない。楽しい映画だったが、身につまされる内容でもあった。

(2013.8.24 角川シネマ有楽町にて)

映画公式サイト

以下ネタバレあり
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2013年08月20日

『タイピスト!』

監督・脚本:レジス・ロワンサル
出演:ロマン・デュリス、デボラ・フランソワ、ベレニス・ベジョ、ショーン・ベンソン、ミュウ=ミュウ、ほか
原題:Populaire
2012年フランス

50年代を舞台とした楽しそうな映画なので観に行って来た。大変評判がよいそうで、東京では1館でしか公開されていないため、超満員である。触れ込み通りの楽しい映画だった。ストーリーは単純で、50年代を意識しすぎたわざとらしさもあるが、ファッションは楽しめるし、ハッピーエンドでストレスを感じさせない作りが人気を呼んだのだろう。

ローズ(デボラ・フランソワ)はバス・ノルマンディー地方のとある田舎町に住む雑貨店の娘。田舎ではこれといった仕事もなく、都会に憧れて、当時若い娘に一番人気の職業、秘書を目指して面接に向かう。ドジで要領の悪いローズであるが、唯一の特技であるタイピングの速さを買われて、雇用主である保険会社経営者のルイ(ロマン・デュリス)のもとで1週間の試用期間を獲得する。天然なローズは秘書には向かないが、ルイは彼女にクビの代わりの条件として、タイプの早打ちコンクールに出ることを提案する。ゆくゆくは彼女を世界大会で優勝させるという野望を抱いたのだ。仕事を失いたくないローズは嫌々承知するが、そこからルイによる鬼コーチの特訓が始まる。打ち方の矯正、指の柔軟性を養うためのピアノ、体力をつけるためのジョギング… めでたくバス・ノルマンディー地方大会で優勝したローズにルイはまだまだ満足せず、パリで行われるフランス大会へ出場させる。そこでは3連覇をかけた垢抜けた実力者がローズを待ち受けていた。

原題の"Populaire"は作品内に登場するタイプライターのモデル名であり、英語の「ポピュラー」に当たる「大衆的な」とか「人気のある」という意味を持つ単語だ。タイプライターがどんどん普及してゆくことと、ローズがだんだん人気者になってゆくことを掛けたタイトルなのだろうか。冒頭に"Triumph"という西ドイツのメーカーのタイプライターが映し出される。ローズの父が営む雑貨店のショーウィンドウに飾られているものだ。私が最初にタイピングを覚えたときは、タイプライターを使用していたので、非常に懐かしい。Triumphと言えば憧れのメーカーだったのだ(さすがに映画に出てくるほど古いモデルではなかったが)。だから、現在のパソコンのキーボードを打つことと比べて、いかに指に力が必要か、訂正が容易ではないからいかに正確に打たなければならないかは、よく理解できる。

ローズがタイピングの腕を上げて行く過程がそのままストーリー展開になっているが、ルイとの間に芽生える愛情や、ローズの家族の話や、ルイの秘めた過去などが、そここに挟まれ、飽きさせない脚本となっている。タイピングの指使いを知るためにキーを色分けし、ネイルをそれに合わせているのが可笑しいが、よいアイディアだと思った。

後半に、世界各国のタイピストが登場するのだが、そのキャラクター設定があまりにも直球なので笑ってしまった。フランスから見ると、諸外国はこういうイメージなのだなあというのがよくわかる。一番好きだったのは、ルイの誕生日にルイの家に両親や家族が集まってくるところである。この暖かさが映画の流れを決めているように思える。

タイピングの軽快なリズムが段々銃の乱射の音のように変わってくるとエンディングも間近だ。私の好みからすれば、やや他愛なさすぎて、心から楽しめる映画とまでは言えないが、50年代に合わせたディティールは十分興味深い。

(2103.8.19 ヒューマントラストシネマ有楽町にて)

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2013年08月08日

『謎解きはディナーのあとで』

監督:土方政人
原作:東川篤哉「謎解きはディナーのあとで」(小学館刊)
脚本:黒岩勉
出演:櫻井翔、北川景子、椎名桔平、中村雅俊、桜庭ななみ、要潤、黒谷友香、甲本雅裕、大倉孝二、伊東四朗(特別出演)、生瀬勝久、竹中直人、鹿賀丈史、宮沢りえ、ほか
2013年

夏休みで子供向けの映画が多く、端境期だけれども、何か観に行きたいと思い、近くで上映していて肩の凝らないものにした。以前、本屋大賞受賞作として話題になったころに原作を読んだが、あまりに軽すぎて面白くなかった。テレビドラマが始まったときは、2,3回見てみたが、なんとなくピンと来なくて全部は見ず仕舞いになった。それなのに何故映画を観ようという気になったかというと、豪華キャストだし、意外に面白そうかな?と思ったからである。

久しぶりにバカンスがとれた麗子(北川景子)は、シンガポール行き豪華客船プリンセス・レイコ号に景山(櫻井翔)を従えて乗り、あれこれ楽しむつもりだったが、乗客のひとりが謎の死を遂げる。そしてあろうことか、船には麗子の上司で、常にトンチンカンな推理をひけらかす風祭警部(椎名桔平)が乗っていた。彼は国立市からシンガポールに送られる「Kライオン」なるアート作品の警備のために来ているのだった。死んだ乗客は他殺だとわかったが、犯人の目星もつかないうちに、第2第3の事件が起こり、ついには麗子の身も危うくなる。景山はどうやって事件の真相を見出すのか。

コメディーと謎解きをうまく融合させるのは結構難しいと思うが、この作品はそのへんがしっかりしていて、なかなか面白かったと言える。劇画タッチでたたみかける台詞や、映像処理が嫌みなく挿入される。TVのスポットでも紹介された「クビ!クビ!クビ」という文字が転がるところなども悪くない。そもそも毒舌執事と令嬢刑事という設定にリアリティーがなさすぎるわけだから、思いっきり開き直った作り方をしないと中途半端になってしまう。その点、豪華客船というこれまたリアリティーのない舞台で、キャストも豪華にして、犯人をわかりにくくしていて、悪くはないと思った。原作の謎解きはどうも底が浅い気がしたが、映画では結構凝っている。

個人的には、こそ泥役の高円寺雄太(大倉孝二)が可愛くて気に入ったし、蓮っ葉な役が結構似合う宮沢りえも良かったと思う。ほんの数秒の登場ではあるが、伊東四朗や野間口徹の顔も見られて楽しかった。惜しいと思ったのは、客室支配人・藤堂(中村雅俊)の娘である歌手の凛子(桜庭ななみ)の歌が完璧に吹き替えだったことだ。格好いいジャズの曲なので、これはやっぱりちゃんと歌える人をキャスティングしてほしかったとも思うが、凛子は一応重要な役どころなので、演技力を優先させたのかなと想像している。あまりにも口パクが見え見えなので、ちょっとシラけてしまった。

(2013.8.8 ユナイテッド・シネマとしまえん にて)

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posted by すいっち at 23:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年08月07日

『悪いやつら』試写会

監督・脚本:ユン・ジョンビン
出演:チェ・ミンシク、ハ・ジョンウ、チョ・ジヌン、マ・ドンソク、クァク・ドウォン、キム・ソンギュン、キム・ヘウン、ほか
原題:범죄와의 전쟁: 나쁜놈들 전성시대(犯罪との戦争:悪い奴らの全盛時代)
英題:Nameless Gangster : Rules of the Time
2012年韓国

ハ・ジョンウ出演で昨年韓国で大ヒットした作品とあっては、観ないわけにはいかない。頑張って応募して昨日試写会に行って来た。会場は韓国文化院のハンマダンホール。韓国文化院に足を踏み入れるのは初めてだが、立派な綺麗なビルで、ホールは見やすいレイアウトで、椅子もゆったりしている。

ユン・ジョンビン監督についてはまったく知らなかったのだが、撮影時は33歳だというから驚く。次世代を担う期待の監督のひとりらしい。脚本の完成度が高く、とても面白かった。事前の情報から、もっとどうしようもない悪の世界が描かれているのかと思ったら、確かにどす黒い裏社会がテーマではあるし、バイオレンスの要素もあるけれども、むしろ非常に人間くさい映画だった。

1980年代のプサンが舞台。チェ・イクヒョン(チェ・ミンシク)は税関職員として働いていたが、賄賂をもらったことで、ひとり責任を取らされる形で職を失った。プサン最大の暴力組織の若きボス、チェ・ヒョンベ(ハ・ジョンウ)と遠い親戚であることに気づいたイクヒョンはヒョンベに近づく。小狡く、人脈を駆使して狡猾に立ち回るイクヒョンとおのれの腕以外何も信じないヒョンベが組んで、釜山を牛耳ってゆく。だが、1990年にノ・テウ大統領が組織犯罪を本気で撲滅する宣言をおこなうと、二人の関係も徐々に変わってゆく。

極道でもなく、善良なる一般市民でもなく、どちらからも“クズ”扱いされるイクヒョン。愛想は良く、はったりと裏切りと小細工でうまく生き抜いてきた彼と対照的なのが、冷徹で一本気なヒョンベである。決定的な違いはイクヒョンには妻も子もあることだ。家族を守るためならば、犠牲にしてはいけないものなど、彼にはない。詳しく語られないが、ヒョンベは人に裏切られ続けて生きてきて、誰をも信用しないが、人を裏切ることはしないし、道理を通したがる人間だ。これほど接点がなさそうな二人なのに、なぜか彼らは見えない糸で繋がっているかのように、互いを意識の外へ追いやることが出来ない。まるで自分にないものを持っている相手に憧れがあるかのようだ。そのコントラストが非常に面白いし、笑えもする。年長者を大切にする韓国の伝統がそこかしこに見られるのがお国柄だ。

ヒョンベの片腕パク・チャンウ(キム・ソンギュ)や、プサン地方検察庁検事のチョ・ボムソク(クァク・ドウォン)といった個性的な脇の面々が印象的だ。台詞がとてもウィットが効いていて、登場人物は真面目に話しているのだが、笑えてしまう。ハ・ジョンウはプサン訛りを練習して喋っているということだが、標準語とプサン訛りとの違いは残念ながらわからない。日本で言う関西弁のような印象なのだろうか。ラストシーンの見事な演出にはゾクッとした。ハ・ジョンウの美声は必聴。

(2013.8.6 韓国文化院ハンマダンホールにて)

映画公式サイト


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posted by すいっち at 14:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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