2013年10月25日

『スティーブ・ジョブズ』試写会

監督:ジョシュア・マイケル・スターン
脚本:マット・ホワイトリー、ロバート・コマツ
出演:アシュトン・カッチャー、ダーモット・マローニー、ジョシュ・ギャッド、ルーカス・ハース、J・K・シモンズ、マシュー・モディーン、ほか
原題:JOBS
2013年アメリカ

昔からのMacユーザーであり、Apple社が創り出す製品に今なお魅了され続けている私としては、どうしても見ておきたい映画だったので、一生懸命試写会に応募し、公開前に観ることが叶った。ひとつの企業のCEOが一般人の注目をこれほど集めるというのは、ジョブズ以前にはそうそうなかったことだ。良いことも悪いことも、ジョブズについてはあれこれ報道されたし、伝記を読むまでもなく(もちろん読んだが)、彼のことはよく耳にしていた。この映画は自分の知っているジョブズの生涯と、Appleの製品の歴史を、まるでドキュメンタリーのようなリアルさで再現してくれたし、さらにビビッドな色合いを付加してくれるものだった。Macフリークとしては、本当に懐かしく、楽しく、愛おしい作品だった。

冒頭は、2001年の初代iPod発表会のシーンで始まる。ジョブズのトレードマークとなった黒のタートルネックにジーンズ、スニーカー、そして前屈みに歩く姿。あまりにも見事なアシュトン・カッチャーのジョブズだ。これだけで、すでに溜息ものである。その後、時代はジョブズが親友のウォズ(ジョシュ・ギャッド)とともにガレージでコンピューターを作り始める頃にさかのぼる。若い頃からのジョブズの“人たらし”資質や、金の扱いの小ずるさ、未来を見据えた物づくりへの執念を示すエピソードが次々と出てくる。Apple社を作ってからは、猛烈な仕事への熱、必要ないと思った人員への苛烈な無能呼ばわりと冷徹な切り捨て、妊娠したガールフレンドに対する態度など、ジョブズの人格破綻寸前の我が儘な性格も飾らずに語られる。

Apple製品のファンでなければ楽しめない映画かと言えば、まったくそんなことはない。80年代の世相がよくわかるし、駆け出しのジョブズに出資してくれた人たちを見ていると、アメリカという国は、少なくとも当時はこういう風にベンチャーに手をさしのべる懐の深さがあった国なのだなと感激もする。

ガレージ時代からAppleのCEOに返り咲くまで、常に周囲の人々との軋轢を繰り返してきたジョブズ。その人間模様は実話と思えないほど波瀾万丈で、もっとも面白い部分でもある。ジョブズと彼を取り巻く群像の話として観ても十分楽しめる。Macファンとして多少残念なのは、ジョブズが心底こだわった製品のデザイン面の話をもうちょっと盛り込んで欲しかったなと思うことである。

アシュトン・カッチャーを始めとして、キャストはみな素晴らしい。とりわけ、ジョシュ・ギャッドは心優しい控えめなエンジニアであるウォズを的確に演じている。ほんのちょっとの登場だが、ジョブズの養父を演じたジョン・ゲッツがよかったし、彼のシーンはもっとも印象に残るシーンでもあった。

ボブ・ディランを始めとして、ジョブズが好きだったと言われるアーティストの音楽が満載で、音楽面も大満足だった。

(2013.10.23 東商ホールにて)

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2013年10月18日

『ブロークンシティ』試写会

監督:アレン・ヒューズ
脚本:ブライアン・タッカー
出演:マーク・ウォールバーグ、ラッセル・クロウ、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、ジェフリー・ライト、バリー・ペッパー、カイル・チャンドラー、ナタリー・マルティネス、ほか
原題:BROKEN CITY
2012年アメリカ

マーク・ウォールバーグとラッセル・クロウの演技合戦と注目されていたので、試写会に応募してみた。まあまあ面白く、それなりの出来の作品という程度の感想だ。

舞台はニューヨーク。7年前にあることがきっかけで刑事を辞め、今では私立探偵を生業としているビリー・タガート(マーク・ウォールバーグ)は、市長選を間近に控えた現ニューヨーク市長のホステラー(ラッセル・クロウ)に呼ばれ、妻(キャサリン・ゼタ・ジョーンズ)の浮気の現場を撮り、浮気相手を特定することを依頼される。妻を寝取られた男というのは、選挙において最も有権者にそっぽを向かれる存在だからという理由だ。市長とビリーとは、ビリーが辞職した原因となったある殺人事件の秘密を共有していた。調査の結果、浮気相手はなんと対立候補ヴァリアントの懐刀とも言うべき重要人物アンドリュースだった。ところが数日後アンドリュースが何者かに射殺される。市長の陰謀に利用されたと気づいたビリーは、圧倒的に不利な戦いを市長に挑む。

クライムサスペンスは比較的好きなジャンルで、演技派二人の共演ということで期待していたのだが、観終わったあとでさほどの感慨は湧かなかった。ストーリーがスピーディーに運び、ニューヨークの街のダークサイドが良い雰囲気を醸し出してはいるのだが、あまり新味はないし、アメリカのこの手の映画はもういいや、という気分になる。元刑事対政界の大物という対立の構図も飽きた。観ていて一番気になったのは、効果音の大きさである。何かが突然起こるときの音が不自然に大きく、ホラー映画じゃあるまいしと思ってしまった。

ビリーも市長も共感できる人物像ではなかったが、唯一なかなか良いと思ったビリーの事務所で助手を務める女性ケイティ役の女優さんは、公式サイトにもクレジットがなかったので、IMDbを調べたところ、アロナ・タルというイスラエル出身の人だった。ケイティは現代的な女の子だが、頭の回転がよく調査能力にも長けていて、暗いストーリーの中にほっとさせる時間を提供してくれる面白いキャラクターだった。

(2013.10.16 なかのZERO大ホールにて)

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2013年10月15日

『地獄でなぜ悪い』

監督・脚本・音楽:園子温
出演:國村隼、長谷川博己、星野源、二階堂ふみ、友近、堤真一、坂口拓、成海璃子、ミッキー・カーチス、ほか
英題:WHY DON'T YOU PLAY IN HELL?
2012年

散発的にこの作品の情報には接していて、園子温監督作品だし、二階堂ふみが出ているし、長谷川博己が撮影時にテンションを高めるのに苦労したという話をどこかで聞いたし、トロント映画祭ではミッドナイト・マッドネス部門で観客賞に輝いたそうだし、面白そうだとは思っていた。いや、これは本当に面白かった。アクション活劇だそうだが、任侠アクションコメディー+青春映画とでも言おうか、ありきたりのジャンルの枠内に収まらない、とにかく元気いっぱいの疾走感溢れる映画であった。

ヤクザの組長・武藤(國村隼)は、獄中の妻しずえ(友近)の夢が娘のミツコ(二階堂ふみ)を大女優にすることなので、しずえの出所を間近に控え、なんとか主演映画に出させてやりたいと考える。ところが、主演が決まっていた撮影現場から、ミツコは彼氏の元へ逃げ出してしまう。ミツコが見つからないため、監督にも愛想をつかされ、映画は別の女優を主演に立てて撮影されることになった。焦った武藤はミツコとその男・公次(星野源)を捉まえ、こうなったら自分たちで映画を撮り、ミツコを主演に立てて、しずえの出所に間に合わせようとする。だが、公次はたまたまミツコに出くわしただけの、何の関係もない青年。しかし勘違いした武藤に、ミツコも公次は彼氏であり、映画監督だと嘘を言う。一方、高校時代から映画監督の夢を捨てずに30歳近くになってしまった平田(長谷川博己)は、仲間たちと細々と自主製作映画を撮っている男だ。平田はいつか映画の神様が微笑んでくれると信じて疑わない。たまたま公次は平田と出会い、彼に映画を撮ってくれと頼む。夢が叶ったと狂喜する平田は、武藤組が対立する組織の組長・池上(堤真一)のところへ殴り込みをかけるのをそのまま映画に撮る計画を立てる。平田の盟友のカメラマン二人と、ヤクザたちがスタッフを務める撮影がいよいよ始まる。

すべてがオーバーなのだが、究極のハイテンションのまま、ハイスピードで展開する物語は、爽快以外の何物でもない。ヤクザが撮影助手、照明、俳優を務める撮影風景が、圧巻だ。心ならずも巻き込まれた公次はミツコに心惹かれてゆき、池上はミツコが幼いころから思いを寄せているために、人間関係も一筋縄ではいかない複雑さを見せる。対立する2つの組が入り乱れての撮影現場は、これをよく更に撮影したと感心するほどの迫力だ。

最初から最後まで大笑いして観ていたような気がする。スプラッターさえ、なんだか可愛く見えてくる。堤真一のミツコを見つめるとろけそうな表情は特筆ものだ。また、大河ドラマ「八重の桜」での尚之助のイメージで長谷川博己を知っている人は、そのとんでもないテンションにビックリするだろう。機関銃のように映画論をぶちかまし、鬼気迫る雰囲気でカメラを回す役どころが、これまたぴったりなのだ。二階堂ふみは恐ろしいまでの安定感がある。ハチャメチャな大人たちの中にあって、色気さえ感じさせるヤクザの娘をクールに演じている。

平田たちの高校時代と現在とでは、もちろん演じる俳優は異なっているのだが、どの役柄も大人になったときの俳優に違和感がないのに驚く。決して顔が似ているなどということではなく、キャラクターをきちっと作っていて、少年や少女たちの時代も疎かにしていないということだ。個人的には手持ちカメラを得意とする女性カメラマン役の人がたいへん気に入ったのだが、検索してみても名前がわからなかった。残念。

「全力歯ぎしりレッツゴー♪ギリギリ歯ぎしりレッツフライ♪ 」という歌が妙に頭に残り、映画自体も癖になりそうな魅力があった。しかし園監督、走らせるの好きだなあ!

(2013.10.13 池袋HUMAXシネマズにて)

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2013年10月08日

『凶悪』

監督:白石和彌
脚本:高橋泉、白石和彌
原作:新潮45編集部篇『凶悪―ある死刑囚の告発―』(新潮文庫刊)
出演:山田孝之、ピエール瀧、リリー・フランキー、池脇千鶴、白川和子、吉村実子、小林且弥、斉藤悠、米村亮太朗、松岡依都美、ジジ・ぶぅ、村岡希美、外波山文明、廣末哲万、九十九一、原扶貴子、ほか
英題:THE DEVIL'S PATH
2013年

私は原作を読んでいないが、読んだ人から「本当に怖い話だった」と聞かされていた。怖い映画が好きなわけではないが、キャストも良いし、話題作なので観たいと早くから思っていて、ようやく観に行くことができた。描かれている世界は戦慄を覚えるものだが、映画としてのクオリティーが非常に高く、脚本・映像ともに優れた作品で、高評価なのも当然と思えた。

雑誌記者の藤井修一(山田孝之)は、上司の芝川(村岡希美)から、東京拘置所に収監中の死刑囚・須藤純次に面会に行くよう命じられる。須藤は編集部に手紙を寄越し、自分の犯した事件の話を聞いて取材して欲しいと頼んで来たのだ。面会室で須藤は藤井に、自分には白状していない余罪が3件あると話し出す。そして、それはすべて“先生”と呼ばれる不動産ブローカーの木村孝雄(リリー・フランキー)が首謀者なのに、捕まらずにシャバでのうのうとしているのが許せない。自分の死刑は仕方ないが、このことを記事にしてもらって、“先生”に復讐したいというのが須藤の希望だ。須藤の話がどこまで本当なのか、半信半疑で調査を始めた藤井は、様々な手がかりが見えてくるにつれて、須藤の言葉に信憑性を感じるようになり、真相解明にのめり込んでゆく。須藤の話はどこまで本当なのか。“先生”とはいったい何者なのか。藤井の取材の結果は何を生み出すのか。

前半は、須藤の犯した殺人の経緯が克明に描写される。かなりハードな内容だ。暴力団幹部であり、直情径行型の須藤も恐ろしいし、人の死をまさに楽しんでいるかのような木村は更に恐ろしい。一方、藤井の家庭の事情にもしっかり踏み込み、老いた藤井の母(吉村実子)の介護で心身共に限界に来ている妻・洋子(池脇千鶴)と、藤井との確執がリアルに描かれる。さらに、殺された被害者家族の実情など、すべてのエピソードが過不足なくストーリーにからんでゆく。起きたことと、起きるまでの経緯の時間軸をずらして描いているが、この脚本が実によかった。そして、主演の3人だけでなく、周囲の人たちもきちんと印象に残る撮り方をしている。この奥行きのある物語を128分の中にしっかりと盛り込んだ脚本には本当に感心した。

ロケ地の選択やセットの質感もすばらしく、今村力による美術が作品全体のクオリティーを支えていると思う。キャストはとりわけピエール瀧とリリー・フランキーが、ものの見事にキャラクターになり切っていた。リリー・フランキーについては、『そして父になる』での暖かい父親像を見たばかりなので、その振り幅の大きさに驚かされる。女優陣では、池脇千鶴と吉村実子が実力通りの好演。吉村を見ていると、自分の母親が二重写しになり、何とも言えぬ気持になる。さらに、私が良いと思ったのは、須藤の愛人を演じた松岡依都美だ。官能的で可愛らしく、作品の色合いにぴったりだった。須藤の弟分・五十嵐を演じた小林且弥も印象に残った。

人間の凶悪さとは何か。最後までそれを考えさせられる。エンディング近くで木村が藤井に発した一言に、本当の恐ろしさがこめられている。

(2013.10.6 池袋シネマ・ロサにて)

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2013年10月04日

『危険なプロット』試写会

監督・脚本:フランソワ・オゾン
原作:フアン・マヨルガ「The Boy in the Last Row」
出演:ファブリス・ルキーニ、クリスティン・スコット・トーマス、エマニュエル・セニエ、ドゥニ・メノーシュ、エルンスト・ウンハウワー、ほか
原題:Dans la maison
2012年フランス

あらすじを読んだだけで、観たい!と思って試写会に応募したところ、幸い当たって観て来た。作品もキャストも高評価を受けていて期待が持てたが、実際に素晴らしく面白かったので大満足。「知的サスペンス」という触れ込みだが、ユーモアもたっぷりで、フランス映画としては私の好きなタイプの作品だ。

ジェルマン(ファブリス・ルキーニ)はリセ(高校)の国語教師。若い頃は作家になる夢があったが、今は文章力のない生徒たちの作文添削にうんざりする毎日を送っている。新学期を迎えたばかりのある日、生徒の作文の中に気になるものを見つける。クロード(エルンスト・ウンハウワー)が書いたもので、クラスメイトの家族の話を鋭い観察力と繊細な描写で綴った作文である。文章力も、他の生徒に抜きんでている。クロードの才能を感じ取ったジェルマンは、放課後に彼の個人教授を始め、小説の書き方を指導してゆく。クラスメイトの美しい母親(エマニュエル・セニエ)を作文に登場させ、家の中を覗き見し、毎回「続く…」という但し書きをつけて作文をどんどん提出してくるクロード。いつしか、ジェルマンはその物語に囚われて行き、自身の生活の歯車も狂って行く。

フランスの生徒たちが決まって使う青い細い罫線の用紙を使った洒落たオープニング。教師ジェルマン対生徒クロード、ほとんどストーリーはこの二人の対峙で進んでゆく。青いインクのボールペンで書かれた作文にフランスらしさが感じられる。フランス人はだいたい青いボールペンで書くことが多く、黒いボールペンはあまり見たことがない。ジェルマンは、様々な文学作品(フロベール、ドストエフスキー…)をダニエルに読ませ、文章の書き方を指導してゆく。しかし作文はジェルマンがアドバイスした以上の挑戦的ともいえる展開を見せるようになり、二人の間にあった共犯のような精神的関係が、だんだん熱を帯びた戦いのようなものに変質してゆく。その過程がスリリングだ。ジェルマンも観客も、クロードの小説の続きを読みたくてたまらなくなる。

大注目のエルンスト・ウンハウワーは、端正な顔立ちとその危険をはらんだ眼差しで、クロードを実に魅力的に演じている。底意があるわけではない高校生に自ら翻弄されてゆくジェルマンを演じるファブリス・ルキーニも、当然のことながら素晴らしい。私は『潜水服は蝶の夢を見る』で好演だったエマニュエル・セニエが今回もとても良かったと思う。さりげなさの中に色気のある女性を素敵に演じている。ジェルマンの妻を演じるクリスティン・スコット・トーマスは物語のユーモラスな部分を受け持っていて面白い。

原題の≪Dans la maison≫は「家の中で」という意味で、これは実際に映画を観ると、どういうことなのかがわかる。「危険なプロット」という邦題は、考え抜いた結果なのだろうが、むしろ異なる方向に誘導してしまうのではないかと気になった。

何度も繰り返される≪à suivre≫(「続く」)の台詞が耳に残る。

(2013.10.2 東商ホールにて)

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以下ネタバレあり
posted by すいっち at 22:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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