2013年11月23日

『ウォールフラワー』

原作・監督・脚本:スティーブン・チョボスキー
原作:「ウォールフラワー」(集英社文庫刊)
出演:ローガン・ラーマン、エマ・ワトソン、エズラ・ミラー、メイ・ホイットマン、ジョニー・シモンズ、ポール・ラッド、ほか
原題:The Perks of Being a Wallflower
2012年アメリカ

エマ・ワトソンが映画に出演すると知って楽しみにしていたところ、公開前から絶賛の声が相次ぎ、ますます期待が高まり、公開初日の今日観に行ってきた。「青春映画」以外の何物でもないのだが、青春まっただ中にいる若者たちのあまりのいじらしさに、胸が痛くなるような感慨を覚えた。

16歳のチャーリー(ローガン・ラーマン)は高校生活を始めたばかりだが、口べたで引っ込み思案なため、友だちは一人もおらず、小説家になりたいという夢はあるが、ひたすら目立たないようにして3年間をやり過ごそうとしていた。そんな彼に特別な出会いがやってきた。陽気な自由人パトリック(エズラ・ミラー)と、飛び切り可愛く奔放な彼の妹サムだ。彼らのお陰でチャーリーは初めて友情というものを経験し、サムには恋心を抱くが、心を打ち明けることもせず、ただサムの幸せを願うばかり。実はチャーリーには彼らにも秘密にしている昔の事件があった。それがチャーリーに執拗な影を落とし、彼ら3人にも変化が訪れる。

女性であるがゆえに、登場人物の中でサムの心情が本当によくわかる気がした。奔放に見えるが、彼女自身が自分でもはっきりと見定められない何か重いものから、どれだけ解放されたかったか、はじけるようなはしゃぎっぷりの中に、その切ない思いが見て取れる。男性が観れば、やはりチャーリーやパトリックの中に、自分との共通点が見えるのかも知れない。

エマ・ワトソンは期待通りで、本当に魅力的。ダンスシーンと、トンネルのシーンが記憶に残る。「奔放」と性格づけられているサムにしては、ちょっと上品すぎるかも知れないとは思ったが、高校生の瑞々しさは十分出ていた。エズラ・ミラーは非常に個性的なパトリックという人物を見事に演じ、一番印象づけられた。

映画を特徴づけているのは音楽だ。80〜90年代の音楽がごく自然に背景に溶け込み、彼らの心の動きを代弁しているかのようだ。私が当時聞いていた音楽とはジャンルが異なるので、あまりよく知らない曲が多かったが、本当に時代をよくあらわした曲ばかりだと感じた。自分のお気に入りの曲を集めてカセットテープに入れ、好きな人にプレゼントするというのは、当時の若者ならたいていの人が経験したことだろう。

勉強で落ちこぼれるでもなく、非行に走るでもなく、突飛すぎる行為をするでもなく、いわば普通の高校生たちの生活を描いているからこそ、嘘くささのない作品が出来上がったように思える。素晴らしい映画だったし、あのような日々がもはやあまりに遠く過ぎ去ってしまったことをあらためて思い知らされて、悲しくもなる映画だった。

(2013.11.22 ヒューマントラストシネマ渋谷にて)

映画公式サイト
以下ネタバレあり
posted by すいっち at 00:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年11月18日

『ザ・コール[緊急通報司令室]』試写会

監督:ブラッド・アンダーソン
原案:リチャード・ドビディオ、ニコール・ドビディオ、ジョン・ボーケンキャンプ
脚本:リチャード・ドビディオ
出演:ハル・ベリー、アビゲイル・ブレスリン、モリス・チェスナット、マイケル・エクランド、マイケル・インペリオリ、ほか
原題:THE CALL
2013年アメリカ

911番への緊急通報の声とのやりとりだけで、少女を救おうとするというストーリーに興味を惹かれ、試写会に応募した。防犯で有名なセコム本社にあるセコムホールという初めての会場での試写会。広くはないので観やすい会場だったが、座面の硬い可動椅子だったので、座り心地は最悪だった。上映前に、女性のための防犯についてという内容でのトークショーがあった。この日の試写会は女性限定だったのだ。

アメリカの俳優に疎い私は、ハル・ベリーと言われても、知っていたっけ?と思い出せないほど。調べてみると、2012年日本公開の『ニューイヤーズ・イヴ』で見たことがあるが、まったく記憶に残っていない。本作はサスペンス・スリラーというジャンルだそうだが、こんなに怖いとは予想していなかった。じわじわと恐怖にかられるというのではなく、突発的に怖いシーンが襲ってくる直球のホラーである。それでも、緊急通報司令室という舞台とストーリーはとても面白く、意外すぎるラストシーンとともに、見応えのある1本だったとは思う。

ジョーダン(ハル・ベリー)は、911緊急通報司令室のベテラン・オペレーター。毎日数え切れないほどの市民からの通報に応対し、通報者に的確な指示を与えたり、救急や警察に出動要請をしたりという人の命にかかわる仕事に就いている。ところが、ある少女からの通報が悲劇的結末を迎え、ジョーダンは精神的なダメージを受け、もう通報に直接関わるオペレーターは辞めようと考え、新人教育の指導員になる。そんなある日、ケイシー(アビゲイル・ブレスリン)という少女が、殺人鬼に誘拐されて車のトランクに監禁されていると通報してくる。非常に難しい状況に、応対したオペレーターは匙を投げ、たまたま近くにいたジョーダンが、その電話を引き継ぐことになる。ケイシーがかけてきた電話はプリペイド式の携帯であるため、警察も位置情報がなかなか掴めない。パニックに陥ったケイシーをジョーダンはひたすら力づける。電話を通してだけのやりとりで、果たしてジョーダンはケイシーを救い出すことができるのだろうか。

この映画のチラシを見るまで知らなかったのだが、アメリカの緊急通報司令室で電話応対する人々は、警察官ではないのだ。日本ではすべて警察官が応対するが、アメリカの場合は訓練を受けた一般人なのだそうだ。司令室の描き方がうまいし、仕事の仕方に興味もそそられる。この司令室を「蜂の巣」と呼ぶそうだが、オペレーターたちの声が飛び交い、確かに蜂の巣のようなワーンという異様な音が聞こえる。これに示されるように、この映画では“音”が重要なキーワードとなる。

誘拐されたケイシーを演じるアビゲイル・ブレスリンが非常によかった。恐怖、パニック、絶望、諦め、怒りなど、負の感情を多彩に演じてみせてくれて飽きない。ハル・ベリーはひたすら美しく格好良い。妙に強がらない主人公のキャラクターと彼女の魅力がうまくマッチングしていたようだ。

残酷なシーンはもっとカットしても映画は十分成立したと思うので、ことさらホラー仕立てにしなければ、広い層に受け入れられる作品になるはずと、ちょっと残念な気がする。エンディングは、私は“あり”だと思った。

(2013.11.13 セコムホールにて)

映画公式サイト

以下ネタバレあり
posted by すいっち at 21:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年11月02日

『もうひとりの息子』

監督・脚本:ロレーヌ・レヴィ
原案:ノアム・フィトゥッシ
出演:エマニュエル・ドゥヴォス、パスカル・エルベ、ジュール・シトリュク、ハリファ・ナトゥール、マハディ・ザハビ、アリーン・ウマリ、ほか
原題:Le fils de l'Autre
英題:The Other Son
2012年フランス

子供の取り違えを扱った映画として、是枝裕和監督の『そして父になる』と見較べてみようという論調で最近よく取り上げられているこの作品を観てきた。2012年の東京国際映画祭ではグランプリと監督賞に輝いた話題作である。東京では1館だけの公開であり、金曜はシネスイッチのレディースデー(シネスイッチは毎月1日の映画サービスデーは入場料金が1000円だが、金曜レディースデーは900円とお得なのである)というせいもあって、平日の昼間にもかかわらず、あっという間に座席は売り切れになった。民族問題が根底にあるため、一見重くとらえられがちだが、登場人物それぞれの感情が繊細に描かれており、不思議なことに軽やかな爽やかさのある作品で、私はかなり気に入った。

テルアビブで暮らすフランス系イスラエル人(=ユダヤ人)のシルバーグ家。18歳になった息子ヨセフ(ジュール・シトリュク)が兵役に就くために身体検査を受ける。しかし血液検査の結果、ヨセフが父母の実子ではあり得ないという驚愕の事実が知らされる。母・オリットが18年前に出産した病院を調査してもらった結果、湾岸戦争の混乱の中、同室だった妊婦の子と取り違えられたことが判明。そして、こともあろうに、取り違えられたもう一方の家族アル・ベザズ家は、対立するパレスチナ人(=アラブ人)なのであった。双方の父親は、民族の違いというとてつもない障壁に打ちのめされ、なかなか事実を受け入れようとしない。母親同士は、現在の息子を愛する気持に変わりないが、まだ見ぬ本当の息子に会いたい気持が募る。ヨセフはユダヤ人としての誇りを持って生きてきた自分の足元が崩れて混乱し、アル・ベザズ家の息子ヤシン(マハディ・ザハビ)は、仲の良かった兄に暴言を投げつけられて悩む。通行許可証を申請しなければ容易に行き来もできないイスラエルとパレスチナ自治区。分離壁に隔てられた2つの家族に融和は訪れるのだろうか。そして彼らの選択は?

なかなか日本人の我々には理解しにくい現実の中東情勢であるが、映画はそれを無理なく説明的でない手法である程度示してくれるので、混乱することはない。フランス系であるために、フランス語とヘブライ語を話すシルバーグ家の人々。パリに留学していたためにフランス語とアラビア語を話すヤシン。フランス語がわずかに話せるヤシンの母・ライラ。その他にも、若者たちの共通言語として出てくる英語。各国語が飛び交い、日本語の字幕のほかに、ヘブライ語・アラビア語には英語の字幕もついていて、非常に国際色豊か。言葉を聞いているだけで、中東の複雑さが垣間見えるかのようだ。

親のDNAが子に受け継がれていると思わせるシーンが時々ある。オリットや夫アロン(パスカル・エルベ)の知性は、実の息子のヤシンに受け継がれているのだろう。ヤシンは医学系のバカロレアに合格し、将来は医師をめざす知性の持ち主だ。また、ミュージシャンを目指したいヨセフは、実父サイード(ハリファ・ナトゥール)の音楽嗜好につながり、このことが映画のクライマックスにも大いに関係してくる。

キャストはどの人も素晴らしかったが、主演のエマニュエル・ドゥヴォスが本当に魅力的な母親だった。息子に接するときの優しい語り口とともに、夫の逡巡を鮮やかに受け流す強さもあり、知性を感じさせる。いっぽう、こちらも実に良かったのだが、ライラを演じるアリーン・ウマリは、細かい感情の揺れ動きを的確に演じる女優さんで、パレスチナ映画の至宝だと言われているだけのことはある。ヨセフを演じるジュール・シトリュクはどこかで見た顔だと思ったら、『ぼくセザール10歳半1m39cm』(2004年日本公開)に主演した子だった。大きくなったものだ!

フランス語の原題"Le fils de l'Autre"は英語や日本語とは少しニュアンスが違うと思う。正確には「もう一方の側の息子」ということになるだろう。これは、イスラエルとパレスチナを隔てている分離壁の「向こう側」と「こちら側」を示唆する表現に違いない。従って「向こう側の息子」と訳すと、映画の内容に沿った言葉になる。もちろん邦題を正しい訳語にせよと言うつもりはない。ただ原題のニュアンスがわかると、映画の内容がよりよくわかるのも確かだ。

爽やかな余韻があるのは、結局この映画の中では、息子たちが自ら道を見つけてゆくからだ。親の世代では無理でも、息子たちの時代にはイスラエルとパレスチナの対立もあるいはなくなるかも知れないという希望を持たせる作品なのだ。

奇しくも『そして父になる』の中の台詞と同じ意味の台詞があり、こういう事態に直面した男というのは、皆同じ発想になるのだろうかと思った。

(2013.11.1 シネスイッチ銀座2にて)

映画公式サイト

以下ネタバレあり
posted by すいっち at 12:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。