2014年01月26日

『新しき世界』試写会

監督・脚本:パク・フンジョン
出演:イ・ジョンジェ、チェ・ミンシク、ファン・ジョンミン、パク・ソンウン、ソン・ジヒョ、ほか
原題:신세계(新世界)
2013年韓国

韓国映画のノワール系は、ほとんどハズレがないので、今作も公開を楽しみにしていたが、試写会が当たり、一足先に観ることができた。2013年に韓国で大ヒットし、各映画賞にも輝いた作品だけのことはあった。『インファナル・アフェア』+『ゴッド・ファーザー』であるとか、豪華演技派スター3人の初共演であるとか、宣伝文句はいろいろあるが、そのどれもが誇張ではない。潜入捜査というテーマの性格上、『インファナル・アフェア』とストーリーは部分的には似ているが、出来上がったものはかなり雰囲気が違うといって良いだろう。ストーリーは比較的単純だと思うが、その背景を形作っているものの奥行きが非常に深いという印象だ。とにかく文句なく面白かったし、3人の演技を堪能することができた。

ジャソン(イ・ジョンジェ)は中国系韓国人の警察官だが、韓国の犯罪組織に潜入してすでに8年になる。華僑という同じルーツを持つ組織のNo.2チョン・チョン(ファン・ジョンミン)に可愛がられ、ジャソンは彼の片腕と言える存在になっているが、いつ自分の身分がばれるか解らない恐怖感が一時たりとも頭を離れず、早く元の警察官に戻りたいと切望していた。だが、警察でのジャソンの上司であるカン課長(チェ・ミンシク)は、犯罪組織のNo.1が急死たための後継争いを機に、組織を壊滅させようと、ジャソンに潜入捜査を継続させ、「新世界」と名付けられた作戦を開始する。自分を見出してくれた父のような存在であるカン課長と、同じルーツを持つ兄のような存在のチョン・チョンとの間に立たされるジャソンの苦悩は計り知れない。新世界作戦はどのような展開を見せるのか。ジャソンを待つ運命とは。

まず3人の男のキャラクター作りがとても丁寧で、それを主演3人が溜息が出るほど的確に演じている。彼らが感じる不安・苛立ち・恐怖・怒り、すべての感情がダイレクトに伝わってきて、こちらも見ながら同じように感情が動く。冒頭から血なまぐさいシーンが出てくるし、カーアクションも激しいし、大変な迫力なのだが、カメラワークに一種の様式美のようなものがあり、以外に残虐な場面も嫌悪感を感じないのは希有なことだと思う。

主演3人はどの人も素晴らしかったが、強いていうならファン・ジョンミンがさすがだという気がした。3人の中で最もストーリー展開に重要な役目を果たすのがチョン・チョンなので、役柄自体が彼の演技を後押ししたという面もあるだろう。

ほとんど男の世界なのだが、わずかに登場する女優の使い方がうまいなと感じた。日本の映画だと、ともすれば男だけだと華がないのでというニュアンスの使われ方がなされるが、この作品では非常に自然にストーリーにからんでいて浮いていないと思えた。

(2014.1.20 韓国文化院ハンマダンホールにて)

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2014年01月10日

『黒執事』試写会

監督:大谷健太郎、さとうけいいち
原作:枢やな『黒執事』(掲載 月刊「Gファンタジー」スクウェア・エニックス刊)
脚本:黒岩勉
出演:水嶋ヒロ、剛力彩芽、優香、山本美月、大野拓朗、栗原類、海東健、ホラン千秋、丸山智己、城田優、安田顕、橋本さとし/志垣太郎、伊武雅刀、岸谷五朗、ほか
2014年

面白いかどうか半信半疑で、でも久しぶりの水嶋ヒロ見たさに試写会に行って来た。原作を知らないので、どういうテイストの作品なのかも事前に承知していなかったが、結構酷い死体が出てくるなど、ブラックな世界観で意外性があった。

セバスチャン(水嶋ヒロ)は巨大企業の若き総帥、幻蜂清玄(げんぽう きよはる)伯爵(剛力彩芽)に仕える執事。清玄の本名は汐璃といい、女性であるが、世間にはそれを隠して生きている。セバスチャンは理知的で容姿端麗、武術にも優れ、完璧と思われる執事だが、唯一性格の悪さが欠点。幻蜂家は代々「女王の番犬」という密命を帯びており、このところ連続して起こっている大使館員のミイラ化怪死事件の解決を女王から命じられたため、清玄はセバスチャンとともに動き出す。

『BECK』を観てから3年が経ってしまったが、水嶋ヒロは変わることなく水嶋ヒロであった。年を重ねてやや凄みが増し、セバスチャンという役柄にはぴったりと思えた。相当量のアクションをこなし、迫力満点だが、私はもっといわゆる執事の仕事ぶりを見たかったなあという気がする。どうも、ドラマ「メイちゃんの執事」のイメージが強いので、せっかく完璧な執事という役柄なのだから、武ではなく文のほうの才能を見せるシーンも見たかったのだ。

男優陣に個性的なメンバーを揃えているのに対し、女優陣がどうも弱い気がする。剛力はそれなりだが、男装の令嬢という秘密めいた存在にしては子供っぽすぎる(これは外見の問題だから彼女のせいというわけでもないが)し、一歩間違えると滑稽に近い。優香も物足りない。もっと迫力のある女優をキャスティングしてほしかったところだ。そんな中で、光っていたと思えるのは、幻蜂家のメイド、リンを演じる山本美月だ。彼女が変貌するシーンはとても見事だった。また、ほんのわずかの登場時間だが、葬儀屋ジェイを演じる栗原類が、ストーリーととてもマッチしていて好感が持てた。

全体的にアクションに頼りすぎな印象が強く、セバスチャンと清玄とを繋ぐ契約の問題、この2人のコミカルなやり取り、幻蜂家家老執事の田中(志垣太郎)の存在など、つっこんだらもっと面白くなったのにと思える要素がたくさん見られたので、ちょっともったいないと思う。

(2014.1.8 よみうりホールにて)

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2014年01月04日

『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』

監督・脚本:ジム・ジャームッシュ
出演:トム・セドルストン、ティルダ・スウィントン、ミア・ワシコウスカ、ジョン・ハート、ほか
原題:ONLY LOVERS LEFT ALIVE
2013年米・英・独

年末に観に行こうと思っていたのが遅くなり、今日ようやく観に行くことが出来たが、期待通り、知的でユーモアがありロマンティックでエロティックで、孤独感が切なくて、大変面白かった。

アダム(トム・セドルストン)はアメリカのデトロイトに住み、謎のカリスマ・ミュージシャンという顔を持ち、音楽をこよなく愛する吸血鬼。イヴ(ティルダ・スウィントン)はアダムの恋人の吸血鬼だが、遠く離れたモロッコのタンジールに住んでいる。2人は何世紀も前から愛し合ってきた。彼らは決して質の悪い血を飲もうとはせず、特殊なルートで上物の血を手に入れている。アダムが近頃の人間たちの所業に嫌悪感を抱き、鬱々とした日々を送っていることを知り、イヴは久々に彼の元を訪れることに決める。2人だけの穏やかな日々も束の間、突然イヴの妹エヴァがあらわれ、その奔放さで2人の周囲に波風を立てる。中世から延々と生きながらえてきた吸血鬼の彼らにとっても、この21世紀は決して生き易い時代ではなく、彼らの運命は少しずつ変わってゆく。

まず独特のカメラワークに目を奪われる。アナログレコードの回転を真上からとらえ、それと同じアングルで、デトロイトのアダムとタンジールのイヴの姿が描写される。このアングルはその後も通底音のように何度も繰り返される。吸血鬼が活動するのは日暮れからなので、すべてのシーンが暗いが、部屋の中の暗さ、街路の暗さ、街道の暗さ、それらには微妙な違いがあり、照明の技術が素晴らしいと感じた。小道具も非常に楽しい。イヴが旅行の荷造りの際に選ぶ本の数々が興味深い。彼女が本のページを撫でる仕草は、彼女のある能力を端的にあらわしたものだ。一方音楽好きをもうならせるアダム所有の楽器。吸血鬼と関係なさそうなこれらの細かい道具立てが、現代に吸血鬼が生きているという荒唐無稽さを忘れさせてくれるリアリティーを構築している。

ティルダ・スウィントンは、その現実感のない気品と美しさで、素晴らしい吸血鬼を演じている。トム・セドルストンも悩める青年吸血鬼の雰囲気たっぷりだ。彼らのおかげで、吸血鬼がパソコンやスマートフォンを扱ったり、航空機で移動したりしても、何の違和感も感じない。無類に格好良い音楽とともに、すっかりジャームッシュ・ワールドに嵌まってしまうのだ。どのシーンも綿密に計算された美しさがあり、まったく飽きることがなかった。2度観れば、また新たな仕掛けに気づくのではないかと思う。革の手袋とサングラスがとても印象的。

(2014.1.4 TOHOシネマズ シャンテにて)

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以下ネタバレあり
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2014年01月02日

『永遠の0』

監督・VFX:山崎貴
原作:百田尚樹『永遠の0』(太田出版)
脚本:山崎貴/林民夫
出演:岡田准一、三浦春馬、井上真央、濱田岳、新井浩文、染谷将太、三浦貴大、上田竜也、吹石一恵、田中泯、山本學、風吹ジュン、平幹二朗、橋爪功、夏八木勲、ほか
2013年

元日に映画を観に行くのは初めてのことだ。最近はテレビはどこもお笑いばかりなので、あまり見る気がしない。暮れに観ようと思っていて観そびれた映画が何本かあったので、それなら出かけてみようかと近場のシネコンへ行った。原作は読んでいないが、映画はとても評判がよく、今日も客席は満席に近い。戦争ものだけれども、若手人気俳優を多く起用したことで、若い層の観客がかなり多かった。

とても良い映画だったと思う。私の中でのいつもの基準に照らせば、やはり非常にバランスの取れた作品だったと言える。脚本に無理がないし、現代と戦争中の時間の行き来も自然。多くの人物設定もわかりやすい(これは、実力のある有名な俳優さんたちが多かったからかも知れないが)。そして、全編を貫くテーマが「愛」なので、どんな年代の人にも共感を呼び起こすことのできる作品だということが一番のヒットの原因かも知れない。

佐伯健太郎(三浦春馬)は司法試験浪人中で、ブラブラと日々を送っていたが、祖母・松乃の葬儀の際に、意外な事実を知ることになる。祖父の賢一郎(夏八木勲)と自分は実は血の繋がりがなく、血縁上の祖父は、祖母の最初の結婚相手、宮部久蔵(岡田准一)だったのだ。宮部は太平洋戦争時の零戦パイロットであり、終戦直前に特攻出撃により散った人だった。健太郎は姉の慶子(吹石一恵)とともに祖父のことを調べ始めたが、宮部と繋がりがあった生存者に話を聞きに行くと、彼らは口を揃えて「宮部は海軍一の臆病者」と評するのだった。零戦パイロットとして抜群の腕を持ちながら、宮部は乱戦になると一番に離脱し、生還することにこだわったと言う。生きて妻と娘の元へ帰るというのが、宮部の最大の関心事だったのだ。調べを進めてゆくうちに、健太郎たちは鍵を握る人物に出会う。本当に宮部は臆病者だったのか、それならなぜ彼は特攻に志願したのか、徐々に驚くべき事実が明らかになってゆく。

特攻の話は今までにたくさん聞いてきたが、死地に赴く人々の心理を本作ではうまい処理の仕方で描いていたと思う。実際に散った人と生還した人の間には、とてつもない隔たりがあるという台詞があったが、確かに亡くなった人の最期の思いは知りようもない。けれども、それを踏まえた上で、変に美化したりせずに、わからないことはわからない、彼らの思いはいかなるものだったかを、現代の我々が考えることこそが重要なのだと伝えているスタンスのように思えた。

現代の若者が、特攻を自爆テロと同じものだと考えているとシーンは印象的だった。一瞬驚いたが、確かにそういう認識しかなくても仕方ないのだろうと納得は出来た。現代人と60年前に若者だった人とが、国・天皇・戦争といったものに対して共通認識を持てるはずもない。それでも幸い人間は想像力というものを持っている。健太郎が実祖父の思いにだんだん近づいていけたように、我々も想像力を働かせれば、わずかなりとも昔の人の考え方に触れることができるだろう。肯定せよというのではない。歴史が積み重なって今があるという単純なことを忘れないでいたいと思うのだ。

夏八木勲の演技を万感の思いで見た。彼がスクリーン上で生きている、それだけで涙が出そうだった。元特攻隊員・景浦を演じた田中泯の迫力も凄かった。若き日の景浦を演じた新井浩文、井崎隊員を演じた濱田岳もよかった。大石隊員を演じた染谷将太が童顔なので、後半になってからのシーンでやや違和感があったが、演技には文句はない。ひとりの特攻隊員の話でさえ、これだけのドラマが生まれるのだから、実際の戦争時にはどれだけの数のドラマがあったのだろうと思うと気が遠くなるほどだ。ただ、物語を「愛」に昇華させなければ、もはや現代人には戦争は語れないのかなと、複雑な思いも残った。

(2014.1.1 ユナイテッド・シネマとしまえん にて)

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以下ネタバレあり
posted by すいっち at 09:23| Comment(0) | TrackBack(1) | 映画鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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