2013年04月03日

『天使の分け前』試写会

監督:ケン・ローチ
脚本:ポール・ラヴァティ
出演:ポール・ブラニガン、ジョン・ヘンショー、ガリー・メイトランド、ウィルアム・ルアン、ジャスミン・リギンズ、シヴォーン・ライリー、チャーリー・マクリーン、ロジャー・アラム、ほか
原題:THE ANGEL'S SHARE
2012年イギリス、フランス、ベルギー、イタリア

ケン・ローチ監督の新作ということと、チラシデザインの秀逸さに惹かれて、試写会に行って来た。2012年のカンヌ国際映画祭で、審査員賞を受賞した作品である。なぜかいつもタイミングをはずして、ケン・ローチ監督作品は、有名な『麦の穂をゆらす風』さえ未見だ。唯一観たのは2007年の『この自由な世界で』だけで、それが繊細にしてシリアスな作品でとてもよかったので、今作も期待していたのだが、ちょっと肩すかしを食らった気がする。

一番最初にこの映画のタイトルを目にしたときは、また日本人向けに「天使」なんて言葉をタイトルに使っちゃって!と、冷ややかな気分でいたが、そうではなかった。原題がそもそも「天使」という言葉を使う表現だったのだ。「天使の分け前」とは、熟成を要する酒が樽内で熟成中に蒸発して失われる量のことを言うそうだ。全編を観ると、このタイトルが映画の内容を的確に表していることがよくわかる。

舞台はスコッチ・ウィスキーの故郷スコットランド。ロビー(ポール・ブラニガン)は、職もまともな家もなく、喧嘩沙汰を繰り返す若者。彼は傷害事件を起こしたが、裁判結果は収監ではなく、30日間の社会奉仕というものだった。恋人レオニー(シヴォーン・ライリー)のお腹にはまもなく生まれる赤ん坊がいたので、情状酌量されたのである。社会奉仕活動の監督ハリー(ジョン・ヘンショー)は、ウィスキーの愛好家でもあり、ロビーは彼からウィスキーの楽しみ方の手ほどきを受け、自分にテイスティングの才があることに気づき、ウィスキーにのめり込んでゆく。ハリーが社会奉仕活動に従事するロビーたちを、ウィスキーの蒸留所に見学に連れて行ったときに、超高級ウィスキーがオークションに出されることを知る。ロビーは、恋人と生まれた息子とのまっとうな生活を築くために、なんとか大金を稼ごうと考え、一世一代の大勝負に出る。

前半は、ロビーのすさんだ生活ぶりを描き、「ハートフル・コメディ」という解説が間違いかと疑うほどのシリアスな展開。中盤からそれがガラッと様相を変え、それぞれキャラクターの立った社会奉仕活動仲間3人が登場する。台詞はスコットランド方言のため、特に語尾の方がまったく聞き取れない上に、単語一つ一つにいちいちfour-letter wordがはさまれているんじゃないかと思うほどの悪い言葉遣いにちょっとゲンナリする。ネイティブの人が聞いたら、きっとこの台詞が傑作なのだろうが、その面白さまでは残念ながらわからない。

ポール・ブラニガンは演技が未経験だったが、脚本家に見出され、ゴーチ監督に主演に抜擢されたそうだ。若者4人はあまり手垢のついていない俳優さんたちばかりなので、そこが新鮮でよかったと言えるだろう。キャラクターの中では、ガリー・メイトランドの演ずるアルバートがよかった。モナ・リザもアインシュタインも知らない無学な青年だが、時折無意識に発する言葉がたまたま真実をついていることがあって可笑しい。

また、ウィスキーの製造過程や、熟成樽のことなど、知らなかった面白いシーンがたくさんあるし、スコットランドの風景も心地よい。ただ問題はストーリー。親身になってくれる人との出会いや、息子誕生によって、だんだん生き方を変えてゆくロビーが描かれているが、私はどうしても主人公に共感を覚えることが出来ず、また結末も納得できなかったので、微笑ましい映画という見方が出来なかった。超高価なウイスキーをめぐって馬鹿馬鹿しい金額がやりとりされる風潮を皮肉ってもいるのだろうが、コメディになりきれていない気がした。

(2013.4.2 科学技術館サイエンスホールにて)

映画公式サイト
以下、ネタバレにご注意





結局、ロビーは泥棒をして幸せをつかみ取ったことになり、私のつまらない道徳観念からすると、どうしても受け入れることが出来ない。別に社会通念として許されないことをした者が幸せになってはいけないとは言わないし、そういうテーマで面白かった映画もたくさんある。けれども今作のロビーは、激しやすく安易に暴力に向かう性向がある青年として散々描かれてきて、何を今更という意識が拭えなかった。ハリーにしても、自分のところに「モルト・ミル」が届けられるなんて、ロビーが盗んだに違いないとおそらくすぐ気づくはずだが、それに憤るふうでもない。職のない若者たちという社会的マイノリティを描いているとも言えるが、こんなやり方で職を得てもよいのかと、つい思ってしまう。
posted by すいっち at 14:13| Comment(0) | TrackBack(1) | 映画鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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Tracked: 2013-05-12 20:26
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