2013年09月10日

『許されざる者』試写会

監督:李相日
原作:「許されざる者」(ワーナー・ブラザースピクチャーズ製作)
   デイヴィッド・ウェブ・ピープルズ著
アダプテーション脚本:李相日
出演:渡辺謙、柄本明、柳楽優弥、忽那汐里、小池栄子、近藤芳正/國村隼、滝藤賢一、小澤征悦、三浦貴大、佐藤浩市、ほか
2013年

あらためて言うまでもないが、1993年公開クリント・イーストウッドが監督・主演を務め、アカデミー賞何部門にも輝いた作品のリメイクである。李相日が監督するということと、渡辺謙・柄本明・佐藤浩市という主演メンバーの名前とで、これは観なくてはと思っていたら、幸い試写会に当選し、一足先に昨日観て来た。予想を遙かに上回るド迫力の映像に圧倒されっぱなし。試写会場はかなりスクリーンの大きい会場だったが、比較的前の方に座った私は、スクリーンいっぱいに広がるスペクタクルに、思わずのけぞるような感覚を何回も覚えた。これは出来うるかぎり大きいスクリーンで観るべき映画だと思った。

舞台は1880年(明治13年)の北海道。維新後のまだ混沌とした時代である。かつて旧幕府軍の侍として“人斬り十兵衛”と呼ばれ恐れられた釜田十兵衛(渡辺謙)は、愛する妻と出会ったことで生き方を変え、二度と刀は抜かないと妻に誓った。しかし、その妻は亡くなり、幼い子供たちを抱えて不毛の地で食うや食わずの生活するうちに、十兵衛は生きる意味を見いだせなくなっていた。そんなある日、昔の仲間・馬場金吾(柄本明)が十兵衛を探し当て、賞金首の話に一枚かんでくれと頼んでくる。鷲路の町で、客を怒らせたために顔をズタズタに切り裂かれた女郎のために、女郎仲間が金を出し合って仇をとってほしいと望んでいるのだ。町には大石一蔵(佐藤浩市)という残虐な町長兼警察署長がいて、切り裂き犯を捕らえようともせず、取引をして旨い汁を吸い、賞金稼ぎにやってきた連中を残虐な方法で追い払っている。最初は断った十兵衛だったが、子供たちにもっと良い暮らしをさせてやりたい一心で、来てくれるだけでいいという金吾の言葉に乗った。町を目指す途中、北海道の地理に詳しいアイヌ出身の若者・沢田五郎(柳楽優弥)に出会い、3人で賞金首を探すことになる。最後の最後まで、十兵衛は刀は抜かないつもりだったが…

舞台を北海道にし、時代を明治維新後にしたことが、最大のポイントだったと思う。北海道の雄大さと、一種の無国籍性がなければ、現代において「許されざる者」のリメイクなど不可能だったに違いない。原作を越えようという意気込みがもしあったとしたなら(あれだけの名作を前に、誰もそんな不遜なことは言っていないが、内心そう思っていた人もいるはず)尚更だ。凍てつく北の大地というロケーションが、人間たちの欲望や怨念や悔悟の念や愛情や、本能やあらゆる感情を極限まで高めている。そのために、描かれる暴力シーンも生半可なものではない。佐藤浩市がこれほど悪逆非道振りを見せるのも久しぶりだ。しかし大石の言葉は彼なりの哲学に裏打ちされたものであり、登場人物のひとりひとりを容易に善悪に振り分けることはできない。どの人間についても、この人は維新前はどういう人間だったのだろう、ここに至るにはどれだけの辛酸を舐めて来たのかと、想像を巡らしたくなる。それは女郎たちに関しても同様だ。喜んで女郎になる女などいない。家族のためか、自分が生きるためか、他に選択の余地がなかったために身を落としたのだろうと思わせる。つまりは人物描写に厚みがあるということだ。

衣装が見事で、作品全体のトーンを決める大きな役割を果たしていると思える。和装・洋装・折衷装、さらには地域特性を生かしたアイヌの服装など、無国籍性を出しても違和感がないのは時代背景のせいだ。衣装の汚れやすり切れた感じが素晴らしいし、着こなしにも相当神経を使っていると特に感じさせるのは女郎たちである。彼女たちが並んだスチールを見ると、その時代の女たちの本物の写真のようだ。

そして、映画で描かれることの少ないアイヌの話も興味を惹かれた点のひとつだ。私は北海道に住んでいたことがあるので、一般の人よりはアイヌについて多くのことを聞いている。あの独自文化を育んでいた人々が和人によってどれだけ迫害されたかは、この描き方でも物足りないと思うが、アイヌ語をちゃんと使ったことは非常によかったと思う。

印象に残った俳優は、小澤征悦と小池栄子である。小澤は女郎を切り刻んだ張本人である佐之助を演じるが、単なる粗暴な荒くれというだけでなく、維新により自分の居場所が見いだせなくなり、自暴自棄になっている男の悲しさも見せてくれる。小池のあっぱれな女郎ぶりは、よくここまで…と思うようなあるシーンに象徴されていた。

北海道の大自然の厳しさ美しさと人間模様とを見事に融合させた李相日監督の手腕にあらためて感服した作品だった。

(2013.9.9 ヤクルトホールにて)

映画公式サイト
posted by すいっち at 21:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/374458773
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。