2013年10月08日

『凶悪』

監督:白石和彌
脚本:高橋泉、白石和彌
原作:新潮45編集部篇『凶悪―ある死刑囚の告発―』(新潮文庫刊)
出演:山田孝之、ピエール瀧、リリー・フランキー、池脇千鶴、白川和子、吉村実子、小林且弥、斉藤悠、米村亮太朗、松岡依都美、ジジ・ぶぅ、村岡希美、外波山文明、廣末哲万、九十九一、原扶貴子、ほか
英題:THE DEVIL'S PATH
2013年

私は原作を読んでいないが、読んだ人から「本当に怖い話だった」と聞かされていた。怖い映画が好きなわけではないが、キャストも良いし、話題作なので観たいと早くから思っていて、ようやく観に行くことができた。描かれている世界は戦慄を覚えるものだが、映画としてのクオリティーが非常に高く、脚本・映像ともに優れた作品で、高評価なのも当然と思えた。

雑誌記者の藤井修一(山田孝之)は、上司の芝川(村岡希美)から、東京拘置所に収監中の死刑囚・須藤純次に面会に行くよう命じられる。須藤は編集部に手紙を寄越し、自分の犯した事件の話を聞いて取材して欲しいと頼んで来たのだ。面会室で須藤は藤井に、自分には白状していない余罪が3件あると話し出す。そして、それはすべて“先生”と呼ばれる不動産ブローカーの木村孝雄(リリー・フランキー)が首謀者なのに、捕まらずにシャバでのうのうとしているのが許せない。自分の死刑は仕方ないが、このことを記事にしてもらって、“先生”に復讐したいというのが須藤の希望だ。須藤の話がどこまで本当なのか、半信半疑で調査を始めた藤井は、様々な手がかりが見えてくるにつれて、須藤の言葉に信憑性を感じるようになり、真相解明にのめり込んでゆく。須藤の話はどこまで本当なのか。“先生”とはいったい何者なのか。藤井の取材の結果は何を生み出すのか。

前半は、須藤の犯した殺人の経緯が克明に描写される。かなりハードな内容だ。暴力団幹部であり、直情径行型の須藤も恐ろしいし、人の死をまさに楽しんでいるかのような木村は更に恐ろしい。一方、藤井の家庭の事情にもしっかり踏み込み、老いた藤井の母(吉村実子)の介護で心身共に限界に来ている妻・洋子(池脇千鶴)と、藤井との確執がリアルに描かれる。さらに、殺された被害者家族の実情など、すべてのエピソードが過不足なくストーリーにからんでゆく。起きたことと、起きるまでの経緯の時間軸をずらして描いているが、この脚本が実によかった。そして、主演の3人だけでなく、周囲の人たちもきちんと印象に残る撮り方をしている。この奥行きのある物語を128分の中にしっかりと盛り込んだ脚本には本当に感心した。

ロケ地の選択やセットの質感もすばらしく、今村力による美術が作品全体のクオリティーを支えていると思う。キャストはとりわけピエール瀧とリリー・フランキーが、ものの見事にキャラクターになり切っていた。リリー・フランキーについては、『そして父になる』での暖かい父親像を見たばかりなので、その振り幅の大きさに驚かされる。女優陣では、池脇千鶴と吉村実子が実力通りの好演。吉村を見ていると、自分の母親が二重写しになり、何とも言えぬ気持になる。さらに、私が良いと思ったのは、須藤の愛人を演じた松岡依都美だ。官能的で可愛らしく、作品の色合いにぴったりだった。須藤の弟分・五十嵐を演じた小林且弥も印象に残った。

人間の凶悪さとは何か。最後までそれを考えさせられる。エンディング近くで木村が藤井に発した一言に、本当の恐ろしさがこめられている。

(2013.10.6 池袋シネマ・ロサにて)

映画公式サイト
posted by すいっち at 00:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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