2015年03月25日

詠舞台『蟲師』鑑賞(ネタバレあり)

mushishi1.jpg
「野末の宴」
「一夜橋」




楽しみにしていた詠舞台、今日の公演を観て来た。どの話も好きなので出し物の組み合わせで選んだわけではなく、一番良い席が取れそうな日時を選んでチケットを購入した。その甲斐あって、最前席が取れた。

朗読劇とはいっても、どのような構成になるのだろうと、演出が最大の関心事だった。またどのようなオープニングになるのかがポイントと思えたため、興味は尽きなかった。

客電が落ちしばらくすると「およそ遠しとされしもの…」、もはや『蟲師』に欠くことのできない土井美加の声が聞こえる。舞台前面には白く薄い紗のような幕が降りていて、朗読者は話の流れに従って、この幕の後ろにいたり、前に出てきたりする。土井は常に幕の後ろ。

物語はギンコが狩房家を訪れたという設定で始まり、淡幽にギンコが経験譚を語る形式をとる。そして少し話が進んだ時に「野末の宴」と土井が題を告げる。非常にスムーズな導入だ。朗読者は確かに本を持っているのだが、ただ座っているわけではなく、中野裕斗(ギンコ)が胡座をかいている横で、小林愛(淡幽)は悪い脚を投げ出した横座りになっている。わずかに身じろぎもする。衣装はカジュアルな洋装の普段着のようなものだが、蟲師の世界と調和した材質・シルエット・色を選んでいて、これがシンプルでとてもよかった。小林だけは、ガウンのように上に白い着物を羽織っていた。

幕の使い方が絶妙だ。これは映像を映し出すスクリーン役もする。会場の横壁にも同じ材質の布が吊り下げられていて、そこに蟲の映像が映し出されるシーンもあり、世界の広がりを感じさせる。朗読者が立ったり座ったり、幕の後ろにいたり、前に出たり、動きがあるのが新鮮でありながら、物語とぴったりうまく合致した心憎い演出だ。動きがあっても、肉体で演じる俳優とは異なり、あくまで観客に届くのは「声」である。アニメなしのアニメの世界に近いという言い方は変だが、あくまでも朗読劇。「詠舞台」とは真に見事な命名だと思う。

この舞台で最も感銘を受けたのは、声優さんたちの声の持つ力だ。アニメで聞き慣れた声に声優さんご本人の顔が見えるというのは、一瞬興ざめになるかと思いきや、これはまったくそんなことはなく、声優さんたちの顔を見ているというより、そこにギンコを、淡幽を見ている感覚なのだ。ストーリーはアニメと同じだし、声も同じだが、声の持つ奥行き、声に内包される物語の奥行きは、テレビの比ではない。土井、中野、小林以外では「野末の宴」の禄助役の上村祐翔が素晴らしかったと思う。彼の豊かな声のトーンには惹き込まれた。淡々と話す中野ギンコと好対照で、名シーンと言えると感じた。

鑑賞し終わってまず感じたことは、出来ることなら全話観たかったということだ。私にとっては、決して安くはないチケット代なので、1度だけ行くことにしたのだが、心から楽しめたし、素晴らしい舞台だったと感じた。
プログラムを購入したが、これがかなり立派。ページは綴じられてはおらず帙に納められている。純和風の作りだ。
mushishi2.jpg
(2015.3.25 青山スパイラルホールにて)
posted by すいっち at 23:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月12日

舞台『マレーヒルの幻影』

作・演出:岩松了
出演:麻生久美子、ARATA、三宅弘城、荒川良々、市川実和子/松重 豊

麻生久美子とARATAが初舞台で共演、しかも岩松了・作という情報を夏に知り、ずっと楽しみにしていたのだが、びっくりするほど良い席のチケットが取れ、昨日観に行ってきた。本多劇場のロビーに入ると、わーっと花の香りに包まれる。ものすごい数の贈答花が並んでいる。15分の休憩を間にはさんで約3時間の公演。最近ちっとも芝居を観ていなかった私にとっては、スクリーンで見慣れた方々が目の前を行き来するのは、ちょっと信じられないような異次元空間の趣だ。

スコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』に想を得て、1929年のニューヨークを舞台に、この街で暮らす日本人たちそれぞれが抱える複雑な内面を描いた作品である。『グレート・ギャツビー』でのギャツビーがARATA演じるソトオカ、デイジーが麻生久美子演じる三枝子ということになるが、小説ではこの二人を客観的に眺める視点から描いているのに対し、岩松作品は二人の関係を中心に据えている。程度の多少はあるにせよ、どこかしら心を病んだ人間が登場するところは、いかにもフィッツジェラルドの雰囲気だ。これに加えて、決して真の善人として人を描かない岩松テイストが、それぞれの登場人物に深みを添えている。ただ私にはソトオカと三枝子の、言ってみればシンプルな話に、周囲の人間たちそれぞれの個性がしっかり絡みついているようには見えなかった。そのため、前半は退屈で、後半になって人間関係が少し整理されてやっと居心地がややよくなった感がある。そして、かなりシリアスな話なのに、ところどころ笑いの要素を入れるセンスが私にはどうもわからない。面白かったかと問われれば、うーん…という程度。

麻生久美子は、贔屓目もあるだろうがまずまず良かったと思う。身のこなしの美しい市川実和子ほどの迫力はないが、複雑な三枝子という人間像がよく理解できた。終盤での衣装が実によく似合って美しかった。ARATAはもっと個性的でもよかったのではないか?せっかく素敵なスーツに身を包みながら、気取りがなさすぎた気もする。

畳み掛ける早口の台詞、誰もが闊歩するように舞台上を行き過ぎるのは、演出の意図なのだろうか?大恐慌を目前にした不穏な時代をあらわすためのテンポなのかも知れないが、どうもあのせかせか感がピンとこなかった。

☆内緒話→会場では、田中哲司さんのお姿をお見かけした。気さくにふらっと立ち寄ったといった雰囲気で、スクリーンやテレビで見るより若い方だなという印象だった。

(2009.12.11 本多劇場にて)

森崎事務所・作品ページ
posted by すいっち at 15:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 演劇 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。