2013年07月25日

『シャニダールの花』

監督:石井岳龍
脚本:じんのひろあき、石井岳龍、田中智章
出演:綾野剛、黒木華、刈谷友衣子、山下リオ、古館賢治、伊藤歩、ほか
英題:The Flower of Shanidar
2012年

人の胸に美しい花が咲くという摩訶不思議な設定に、どのようなテイストの作品なのか、面白いのか面白くないのか見当がつかなかったが、大変面白い映画だった。ある程度期待のほうが上回っていたのは、もちろん石井岳龍監督作品であることと、そして現在注目度の高い綾野剛と黒木華の共演であることが理由だ。ラブストーリーではあるのだが、花の持つエロティシズムや不気味さ、それに翻弄される人間たちを描いて、ミステリーの要素もある。女性が花を育むことは、子宮に子供を宿すことにも似て、母性の極とも言えるだろう。女性の本能的な強さや包容力も感じられて、スリリングでありながら、陶酔感も覚える作品だった。

大瀧賢治(綾野剛)はシャニダール研究所に勤務する植物学者。ごく少数の若い女性の胸に芽吹いた花を育て、満開の理想的な状態になったところで摘み取れるように管理する仕事をしている。この花から採取された成分は画期的な薬効を持つことから、高額での取引ができるのだ。ある日、研究所にセラピストの美月響子(黒木華)が赴任し、大瀧の補佐をすることになる。二人はいつしか惹かれ合って行くが、花を採取された女性が相次いで謎の死を遂げ、大瀧の心に研究所に対する不信感が芽生える。響子は、花の魅力にだんだん取り憑かれて行き、二人の運命が軋み始める。

『舟を編む』のときから、黒木華のことはうまい女優さんだと思っていたが、今作ではがらっと印象を変え、ほんわりした中に強さを持つ響子という人物を好演している。響子はいつも仄かに微笑んでいるが、それは何かしら菩薩のような人を包み込む暖かさのある微笑みで、こういう表情は他の女優さんではなかなか出せないのではないかと思う。一方、大瀧は常にピリピリしているような印象のある青年で、この二人のコントラストが良い。ストーリーはほとんどシャニダール研究所内で展開するのだが、その無機質な空間で、二人と何人かの提供者との心理戦のような人間模様が描かれ、まったく飽きることがない。女性の多い映画だが、その中で存在感を見せる所長役の古館賢治もよかった。

(2013.7.24 テアトル新宿にて)

映画公式サイト

以下ネタバレあり
posted by すいっち at 12:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年07月21日

『コン・ティキ』

監督:ヨアヒム・ローニング、エスペン・サンドベリ
原作:トール・ヘイエルダール著「コン・ティキ号探検記」(河出文庫)、ハイエルダール著「コンチキ号漂流記」(偕成社)
脚本:ペッター・スカヴラン
出演:ポール・スヴェーレ・ヴァルハイム・ハーゲン、アンダース・バースモー・クリスチャンセン、ヤコブ・オフテブロ、トビアス・サンテルマン、オッド・マグナス・ウィリアムソン、グスタフ・スカルスガルド、アグネス・キッテルセン、ほか
原題:Kon-Tiki
2012年イギリス・ノルウェー・デンマーク・ドイツ合作

子供の頃、この原作をいったい何度読み返したことだろう。冒険譚はもともと好きだったが、まずこの物語は事実であるということが最大の魅力だった。その原作が映画化されたと知り(1951年にはドキュメンタリー映画が公開されている)、必ず観ようと決めていた。第70回ゴールデン・グローブ賞や第85回アカデミー賞の外国語映画賞にノミネートされた作品だということで大いに期待していたが、まさしく原作を読んだときのワクワク感が甦ってくる素敵な映画だった。

ノルウェーの若き人類学者、トール・ヘイエルダールは、ポリネシア人のルーツがインカ帝国時代の南米人にあるという学説を立て、それを実証するために、古代と同じ材料で筏を作り、ペルーを出発し、動力も舵もない状態で海流に乗り、約8千kmもの距離をポリネシアまで漂流するという無謀な冒険に乗り出す。映画は、この冒険の企画段階から、筏がポリネシアの珊瑚礁に漂着するまでを描く。

ともかく圧倒的なスケールのロケだ。海の広大さ、激しさ、美しさが、ドキュメンタリーのように迫ってくる。360度見回しても、見えるものといったらすべて海。そんな中で、ちっぽけな筏に乗った5人の男たちの織りなす人間模様も見どころだ。後世の尊敬を集めているトール・ヘイエルダール(ポール・スヴェーレ・ヴァルハイム・ハーゲン)がまず良い。自説の証明に執念を燃やす学者としての一面と、幼い頃からの目立ちたがりの冒険家魂とを併せ持つ男だ。彼の口癖は「私を信じろ」。簡単なようで、なかなか言える言葉ではない。辛い航海を続けるにつれて、5人それぞれの性格がむき出しになってゆき、たびたび衝突も起こる。ここが、筏での漂流そのもの以上にスリリングでもあり、フィクションでもなかなかこううまくは人間を描けないだろうと思うほどだ。北欧の俳優さんたちにはまったく詳しくないが、どの人もとても良かった。映画チラシには、本物の当時のクルーの写真(イケメン揃いで驚く!)が載っているが、面差しの似通った俳優を起用したと思えるほど、皆ぴったりのイメージだ。100日に及ぶ航海であるから、彼らはどんどん日焼けし、髪も髭も伸び放題になる。髭は本物なのか付け髭なのかわからなかったが、全員似たような髭の状態になるので、可笑しかった。北欧の男性は皆ああいう風に縮れた髭になるのだろうか。

私が原作を読んだときに一番印象に残ったのは、バルサで筏を組み立てるというくだりだったので、この筏製作過程をもうちょっと描いてくれたらなあと思った。ほとんど男たちは裸のシーンが多いのだが、それでも1940年代当時の町並みや服装も見られて楽しい。英語もきわめてわかりやすいものだった。

我が家から一番近い上映館が角川シネマ新宿だったので、そこへ行ったのだが、もうちょっと大きいスクリーンで海の広大さを満喫したかったなと思う。

(2013.7.20 角川シネマ新宿にて)

映画公式サイト


以下ネタバレあり
posted by すいっち at 02:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年07月13日

『ノーコメントbyゲンスブール』試写会

監督:ピエール=アンリ・サルファティ
出演:セルジュ・ゲンスブール、ジェーン・バーキン、シャルロット・ゲンスブール、ジュリエット・グレコ、ブリジット・バルド−、アンナ・カリーナ、エディット・ピアフ、ヴァネッサ・パラディ、ほか
原題:Gainsbourg by Gainsbourg: An Intimate Self-Portrait
仏題:Je suis venu vous dire...
2011年フランス

『3人のアンヌ』を見たあとの試写会はこれだった。作詞作曲家、シンガー、画家、映画監督、小説家、カメラマンと多彩な面を持つフランスの芸術的知性の極ともいえるセルジュ・ゲンスブール(1928.4.2-1991.3.2)の、20歳から60歳までの40年間を、ほとんど彼自身のコメントのみによって構成したドキュメンタリー映画である。私自身はゲンスブールについては、ジェーン・バーキンとのかの有名なデュエット曲"Je T'aime... Moi Non Plus"を思い出すくらいで、さほど詳しくはなかった。だから、この曲が元はブリジット・バルドーのために書かれたもので、バルドーと録音もしたことなどは全く知らず、このドキュメンタリーで初めて知ったのである。

ドキュメンタリーは説明的なところはまったくなく、決して多くはない彼の既公開や未公開の発言に、当時の映像を重ね合わせている。ほぼ時間軸に沿ってはいるものの、ゲンスブールについて何の知識もない人が見ると、わかりにくいかも知れない。しかし、ゲンスブールってこんなに素敵な存在だったのだと再認識させられるには十分だった。とりわけ、彼の歌声もたくさん聞けるし、彼と関わった女たちの可愛さといったらない。バルドーとのデュエットはバルドーが33歳のとき、バーキンとのデュエット曲が発表されたのは、バーキンが23歳のときだが、この時代の女性たちの大人の魅力はため息がでるほどだ。ギャル文化真っ盛り、"可愛い"がすべてを決まる現代日本に、こういう女性たちはほとんど存在しない。もちろん、草食系男子がもてはやされる現代にあっては、ゲンスブールのような男臭い存在も時代遅れだろうが、ただ女たらしだというのではなく、溢れるほどの才能を持ち、その時その時で対象の女性に惚れ抜く彼の姿を見ていると、成熟した男の魅力がどういうものなのかを思い知らされる。

ゲンスブールは彼自身のルーツについて語ってもいる。とりわけ父との関係は愛憎半ばするもので、生涯彼の頭から離れなかったことが読み取れる。男性との交友関係がまったく出て来ないことも、ある意味興味深い。

この作品はドキュメンタリー臭さをまったく感じさせずにゲンスブールの魅力を見せつけてくれるという点で、本当に楽しいものだった。99分の間、実に幸せな時間をもらえる作品だと思った。

(2013.7.11 UPLINKにて)

映画公式サイト
posted by すいっち at 09:33| Comment(2) | TrackBack(0) | 映画鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『3人のアンヌ』

監督・脚本:ホン・サンス
出演:イザベル・ユペール、ユ・ジュンサン、チョン・ユミ、ユン・ヨジュン、ムン・ソリ、クォン・ヘヒョ、ムン・ソングン、ほか
原題:다른 나라에서
英題:In Another Country
2012年韓国

夕方の試写会に行くまでに珍しく時間があいてしまい、新宿か渋谷で何か観ようと各劇場のスケジュールを確認したところ、この作品がちょうどうまい時間に始まることがわかったので、事前情報ほとんどなしで観に行った。2012年カンヌ国際映画祭のコンペ作品であり、2012年東京フィルメックスのオープニング作品だったことは後から知った。

ほぼ同じような登場人物だが、少しずつ設定の異なる3つの物語を、描いた作品である。韓国の海辺を舞台に、イザベル・ユペールがアンヌという女性を演じるが、3つの物語のそれぞれに、異なるアンヌが登場する。青いシャツのアンヌは映画監督で、友人の韓国人監督に誘われて、ヴァカンスを過ごしに韓国へやってくる。赤いワンピースのアンヌは、浮気中の人妻で、浮気相手の韓国人映画監督と週末を過ごすために海辺を訪れる。そして緑のワンピースのアンヌは離婚したばかりの女性で、友人の韓国人民俗学者と傷心を癒やすための旅行で海辺にやってくる。どの話にも、ライフガードとして海辺に寝泊まりする若い韓国人の青年(ユ・ジュンサン)が登場し、片言の英語でアンヌと話す。

残念ながら、私にはこの作品はまったく面白くなかった。少しずつ設定を変えて3つの物語を語るという構成自体は面白く、ひとつの"もの"を、物語ごとに別の視点から見る趣向も悪くはないのだが、ともかく一つ一つの話がどれもパッとしない。海辺と言っても、印象的な美しい景色があるわけでもなく、ライフガードの青年が、アジア人が欧米女性に抱きがちな憧れとコンプレックスをあまりにもあからさまにに表現しているので、見ていて恥ずかしくなってくる。イザベル・ユペールもこういったゆるい印象の作品は似合わない気がする。それにいくら何でもライフガードと年齢の開きがありすぎる。

(2013.7.10 シネマート新宿にて)

映画公式サイト
posted by すいっち at 01:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年07月06日

『ベルリンファイル』

監督・脚本:リュ・スンアン
武術監督:チョン・ドゥホン
出演:ハ・ジョンウ、ハン・ソッキュ、チョン・ジヒョン、リュ・スンボム、イ・ギョンヨン、ほか
原題:베를린(ベルリン)
英題:The Berlin File
2013年韓国

ハ・ジョンウ見たさに試写会に行って来た。今年の初めに韓国で公開され、大ヒットとなった作品である。偶然か必然か、韓国映画は宣伝文句や前評判に惹かれて観に行って、期待を裏切られることがほとんどない。俳優の知名度が高い日本映画と異なり、いくら韓国で実力派俳優と評価が確定している人たちが出演していても、一部ファンを除いて、俳優で客が呼べるとは限らないために、本当に面白い映画を紹介しなくてはという配給会社の必死さの賜物ではないかという気もする。もちろん、日本映画の配給会社がぬくぬくとしていると言うつもりはないが、日本映画の場合は宣伝文句や口コミなどを信じて観に行くと、自分にとって当たり外れが五分五分といったところなのも事実なのだ。

ベルリンを舞台に、韓国・北朝鮮・ロシア・アラブ・CIAが入り乱れてのスパイアクションということで、人物関係の複雑さについていけるかどうかやや心配があったため、公式サイトの人物相関図だけ頭にたたき込んで試写に臨んだ。けれども、心配は杞憂に終わった。確かに複雑ではあるものの、人物関係は無理なくほどよく整理され、誰が敵か味方かわからない波瀾万丈の物語にもかかわらず、核がぶれることはなかった。

北朝鮮秘密諜報員ジョンソン(ハ・ジョンウ)は、その経歴の不明さから韓国側からは“ゴースト”と呼ばれている男。ジョンソンはベルリンでアラブ組織との武器取引をおこなうが、その情報が南側に漏れ、取引成立寸前に韓国国家情報員ジンス(ハン・ソッキュ)に捕らえられそうになり、すんでのところで逃げおおせる。しかしなぜトップシークレットであるこの取引情報が南に漏れたのか。新たにベルリンに送り込まれてきた北朝鮮保安観察員ミョンス(リュ・スンボム)の証言によれば、なんとジョンソンの妻、ジョンヒ(チョン・ジヒョン)に二重スパイの容疑がかけられているという。国家への忠誠心と妻への愛情と疑念の間で苦悩するジョンソン。だが、彼自身も実は大きな陰謀の渦に巻き込まれているのだった。

東西冷戦の象徴であるベルリンでロケが行われたということが、この作品に与えたものは大きかっただろう。ベルリンの町並みをバックにしたストーリー展開は、オープニングの洒落た映像処理とともに、韓国映画という範疇に収まりきれないスケール感とスタイリッシュ感を生み出している。人物にしても、ジョンソンの上司であるベルリン駐在北朝鮮大使のリ・ハクス(イ・ギョンヨン)のコート姿はイギリスのスパイ映画に出てもおかしくないような渋い格好良さだ。

実力派キャストが集まっただけのことはある。ハ・ジョンウは予想通り役になりきっていて、北の諜報員でありながら一匹狼のテイストを併せ持つジョンソンという男を的確に演じている。彼のアクションの生々しさは独特だ。型にはまった決めポーズの綺麗なアクションというのではなく、本当に戦っていると錯覚させる迫力がある。韓国映画はいつもアクションシーンが素晴らしい。印象に残ったのは、ちょっと得体の知れない存在のミョンスを演じるリュ・スンボム。例えばフランスのヴァンサン・カッセルや、日本の香川照之が醸し出すような、癖のある嫌らしさを表現できる俳優さんだと思った。そして、チョン・ジヒョンの清楚な色気にも感激。韓国の女優さんはほとんど知らないので、あとで調べたところ、アジエンスのCMに出ていた方だとか。そのCMは記憶にあるが、今作ではガラッとイメージが異なる。

韓国映画でありながら、単純に北を悪者にして南が正義であるという描き方をしていないところが非常に面白かった。誰が騙しているのか、裏切ったのは誰か、最後まで手に汗握る展開で飽きさせないが、個人的には格闘のアクションはもっと少なくてもよかったのではないかと思う。アクションに頼らなくても十分見応えのある脚本だと思えるからである。スパイアクション面ばかり強調されているが、切ない人間模様もきちんと配し、そのバランスが優れていたように思う。

(2013.7.4 なかのZERO大ホールにて)

映画公式サイト
posted by すいっち at 02:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年06月30日

『真夏の方程式』

監督:西谷弘
原作:東野圭吾「真夏の方程式」(文藝春秋刊)
脚本:福田靖
出演:福山雅治、吉高由里子、北村一輝、杏、山ア光、塩見三省、白竜、風吹ジュン、前田吟、ほか
2013年

大好きな「ガリレオ」シリーズの映画化、2008年の『容疑者Xの献身』からもう5年経つのか。前作のときはやや辛口の感想(記事はこちら)を書いたが、まるでそれを製作側の誰かが読んだのではないかと思うほど、今作はあのとき感じた不満点が解消され、非常によい出来の作品に仕上がっていて、とても楽しめた。

帝都大学物理学准教授の湯川学(福山雅治)は、美しい南の島、玻璃ヶ浦の開発計画の説明会にアドバイザーとして招聘され島を訪れる。滞在するの緑岩荘。川畑夫妻(前田吟、風吹ジュン)が経営する小さな旅館で、一人娘の成美(杏)は開発反対派の急先鋒でもある。湯川は旅館で、夏休みを過ごしにやって来た川畑の甥、恭平少年と知り合う。子供嫌いの湯川であるが、なぜか恭平には拒絶反応が起こらず、相手をしてやることになる。湯川到着の翌日、堤防下で男の変死体が発見される。緑岩荘に泊まっていた元警視庁の刑事・塚原であった。県警は事故として処理をしようとするが、不審な点の多い死亡に、他殺を疑った警視庁が動き出し、捜査一課の岸谷美砂(吉高由里子)は湯川に捜査協力を依頼する。川畑家の家族に何か秘密があるらしいと気づいた湯川は、いつになく積極的に捜査に関わってゆく。

まず美しい海が舞台の今作、映像が実に綺麗だ。珊瑚礁を色とりどりの魚が舞う海中を、成美がウェットスーツで泳ぐ姿は、杏の足の長さが生きて、うっとりするほど美しいシーンだ。カメラワークも島というロケーションに合わせて、落ち着いた撮り方をしているなと感じていたら、監督のインタビューに、基本的に全編カメラはフィックスという説明があり、なるほどと納得した。

今作はことのほか俳優が頑張った印象がある。福山は前作から経験を重ね格段にうまくなっているように感じる。撮影時期は先日最終回を迎えたTVドラマより早かったため、吉高はこの映画が初ガリレオだったそうだが、ドラマのギャーギャーうるさい(?)イメージとはがらっと変わって、凛としていて、デキる刑事の雰囲気を漂わせている。メイクもTVドラマとは異なり女っぽく見え、妖艶とさえ言える。杏は日焼けして健康的な躍動感があり、感情の迸りを見せるシーンではその迫力に惹きこまれる。そして、一番注目したのは前田吟である。お人好しのいつもニコニコしている下町のお父さんといったはまり役のイメージが強いが、今作では秘密を心の奥に隠した父親としての苦悩をにじませた表情が見事だった。悪役など、もっと幅広い役をやってもらいたい俳優さんだ。彼らの演技を引き出す脚本も見事だったと思う。環境問題、子供の理科離れなど、今日的な問題もからませつつ、謎の解明とともに、人間模様や美しい景色を見せてくれる。そう言うと、満艦飾に聞こえるが、抑えるべきところは抑えて、見応えのある作品に仕上がっていた。

(2013.6.29 ユナイテッド・シネマとしまえん にて)

映画公式サイト
posted by すいっち at 10:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年06月29日

『言の葉の庭』(アニメ)

原作・脚本・監督:新海誠
作画監督・キャラクターデザイン:土屋堅一
美術監督:滝口比呂志
キャスト(声優):入野自由、花澤香菜、平野文、前田剛、寺崎裕香、ほか
2013年

がらにもなくアニメ映画を観てきた。予告映像を見て、その美しさに感動したからである。上映は、新海監督の短編アニメ『だれかのまなざし』との併映だったが、『言の葉の庭』を見終わってしまうと、どんなストーリーだったかもまったく記憶に残っていない。

『言の葉の庭』は評判通り、これがアニメかと思うほど水の描写が美しく、緑濃い庭(新宿御苑をモデルにしているそうだ)の風景は素晴らしい。緩急のある雨脚、池の水面に広がる水紋、光の濃淡が繊細なタッチで描かれる。そもそも木々の緑が好きな私にとって、この映像美は大変魅力的であった。

靴職人を目指したい高校生のタカオは、雨の日は決まって午前中学校をさぼり、公園にやってきては、園内の四阿にひとり座って靴デザインのスケッチをしている。ある日、タカオはその四阿で大人の女性に出会う。何かしら心に重い物を秘めた様子の彼女は、タカオの邪魔をするでもなく、缶ビールを飲みながら公園の景色に目をやっている。折しも梅雨の季節、タカオは彼女にしばしば出会い、やがて打ち解けて話をするようになり、誰にも話したことのない靴職人への憧れも語る。彼女がもっと歩きたいと思うような靴を作りたいというい願望がタカオに芽生えるが、やがて梅雨は明けようとしていた。

ストーリーは、思春期の高校生の、大人の女性に対する淡い思いを通して、心の成長を描いたものだが、特に目新しいものではない。映像の美しさがすべてであった。ただ、アニメを見慣れていない私には、リアリティーのある自然美と比して、人物の作画にどうしても馴染めなかった。3Dの背景の中に2Dの人物が配置されているような違和感があるのだ。あくまでも漫画風の大きな目、八頭身以上のスタイル、アニメ独特の身体の動き、それらが邪魔をしてストーリーの中に入り込めない。ストーリーなしで、公園の景色だけをいつまでも見ていたい気分にさせられる。ここを乗り越えるかどうかで、アニメ好きかどうかの違いが出てくるのだろうが、私には無理のようだ。

(2013.6.28 池袋HUMAXシネマズにて)

映画公式サイト
posted by すいっち at 02:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年06月17日

『二流小説家―シリアリスト―』

監督:猪崎宣昭
原作:デイヴィッド・ゴードン「二流小説家」(ハヤカワ文庫)
脚本:尾西兼一、伊藤洋子、三島有紀子、猪崎宣昭、
出演:上川隆也、片瀬那奈、平山あや、小池里奈、黒谷友香、賀来千香子、でんでん、高橋惠子、長嶋一茂、戸田恵子、中村嘉葎雄、佐々木すみ江、本田博太郎、伊武雅刀、武田真治、ほか
2013年

原作は海外ミステリとして大評判になった作品だというので、ストーリーが面白いかなと思い観に行ってみた。海外小説を日本映画として映像化する場合、どこまで日本的な要素に置き換えるかが一番のポイントとなるのだろうが、これはまったく日本映画としか思えない作品に仕上げられていた。そして道具立てがあまりにも日本そのものなので、たとえばテレビのミステリードラマと、さほど違いを感じない陳腐さもやはりそこには見えた。原作はまったく読んでおらず、ストーリーも知らなかったが、結末は容易に見当がつくものだった。

しがない中年小説家の赤羽一兵(上川隆也)は、エロ雑誌に小説を書くことで生計を立てている。その彼のもとに突然死刑囚の呉井大悟(武田真治)から手紙が届く。呉井は自称・写真家で、4人のモデル女性を猟奇的な殺し方をしたとして死刑判決の出ている男だ。迷った末に拘置所に面会に行った一兵に、呉井はある依頼をする。自分のためだけに官能小説を書いてくれれば、自分のこれまでのことをいっさい告白するので、一兵はその告白本を出版すればよいというのだ。呉井の弁護士・前田礼子(高橋惠子)に相談に行くと、彼女は呉井が死んでからなら出版は自由だが、それまでは彼の喋ったことはいっさい公にしてはいけないと言う。さらには、殺人事件の被害者家族の会が、被害者のことを再び世間に晒すような真似はしてほしくないと強く抗議をしてくる。だが、自分の書いたものが日の目を見るかも知れないという欲望に屈した一兵は、呉井のために小説を書き始める。

キャストは悪くないと思うのだが、ちっとも面白く感じられないのは、脚本のせいか映像のせいか。全体的にべたーっとした印象で、メリハリがあまりない。一兵のサエない小説家ぶりも、呉井のフォトグラファーとしての面も、もっと強調しないとストーリーが活きてこないような気がする。スパイスを効かせるつもりの、一兵の姪・亜衣(小池里奈)や、被害者家族のひとり長谷川千夏(片瀬那奈)の存在が、むしろ煩わしい。意外に多い登場人物がうまく噛み合っていない。見終わったあと、で、結局あの人は何だったの?という消化不良が多かった。こちらの理解力不足かも知れないが、犯人以外に誰がどう事件にかかわっていたのか、どうもよくわからない。二度見ればもうちょっと整理されるかも知れないが、二度見たいと思うほどの作品とは言えない。良かったのは、拘置所での一兵と呉井のやりとり。どこまで本音かわからない呉井の気まぐれぶりにとまどう一兵、この二人のシーンはもっとも重要だと思われるし、上川も武田も十分魅力を発揮していたと思う。

(2013.6.16 ユナイテッド・シネマとしまえん にて)

映画公式サイト

以下ネタバレあり
posted by すいっち at 00:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年06月16日

舞台『断色−danjiki−』

作/青木豪
演出/いのうえひでのり
出演/堤真一、麻生久美子、田中哲司

ヴィレッヂ・プロデュース2013

danjiki.jpgたまたま2週連続で舞台鑑賞。数年に一度しか舞台を見ない者としては異例のことであるが、出演者の顔ぶれを知って、ほぼ麻生久美子目当てであるが、これは見なくちゃとチケットを取った。演劇鑑賞経験のきわめて少ない私は、青山円形劇場も初めてだ。公演内容によって、どこの座席まで客を入れるかは異なるそうだが、今回の舞台は円形の舞台の周囲360度ぐるっと座席があるレイアウトだった。座席は数列しかないので、どこの席からでもよく舞台が見える。私は前から2列目で、目の高さがちょうど舞台のレベルだったろうか。

出演者は3人の名前しかクレジットされていなかったが、本当にたった3人の芝居。堪能できた。狭い空間だし、残響が抑えられているので、台詞は非常に明瞭に聞き取れる。演者は主にカーテンからランウェイを通って舞台に登場するが、捌けるときは客席内の通路を使ったり、円形を効果的に利用している。また周囲の壁には背景や、シーンによって様々な画像が映し出され、とても新鮮に思えた。

時は近い未来。無農薬農法で作物を作っている小杉保(堤真一)のもとに、クローン保険の営業マン・刈谷(田中哲司)がやってくる。小杉の母・朝子(麻生久美子)はクローン保険をかけており、乳ガンにかかったときに、クローンの乳房を移植したのだが、その後腎臓ガンを患い、先日亡くなったのだ。被保険者が亡くなった場合、保険で作られたクローンは、保険会社が“処分”するか“解放”して社会生活を送らせるかになる。遺された家族として小杉はこの二者択一に頭を悩ませることになる。

前半はよいテンポでコミカルなシーンが続く。中盤からシリアスな側面が色濃くなり、登場人物それぞれの本性があらわになって行き、夢と現実が錯綜し、近い未来の日本の姿が示唆されるようになる。3人しかいないために、台詞の量たるや凄まじいものがある。麻生は涼しい顔で、様々なトーンの台詞を使い分け、かなりの下ネタを畳みかけるシーンでもよどみがない。無表情から一転してこぼれるような笑顔を見せたり、可愛さ満開である。衣装もこれまたとても素敵だ。クローンである夕子の衣装は、カントリーテイストを取り入れたシルエットだが、素材が柔らかい生地を使っており、身体の動きに合わせて綺麗に揺れる。両袖のデザインが異なっていたり、別生地をスカートに挟み込んであったり、色合いもお洒落。最も注目したのは麻生が履いていたベージュ色の靴。足にぴったり合った柔らかい革製のように見えるヒールなしの靴。私の席の角度のせいで、靴の裏がよく見えたのだが、底が普通のタウンシューズなどと異なる素材のようだ。きっとジャズダンス用のシューズなのではないかと思う。

堤真一は演劇畑出身だとは知っていたが、テレビで見る彼とはずいぶん違って、溌剌として若く見える。身のこなしも軽い。田中哲司はさすがにカメレオン俳優と異名を取るだけのことはある。おそらく一番台詞も多く、2度ばかり噛んでいたが、声がよく通り、身体の大きさを活かした迫力満点の演技だ。

暗転のときに舞台装置を替えに来るスタッフは、全員防毒マスクをつけ、揃いの作業ウェアを着ている。これも目を惹き、装置転換の間のダレを払拭してくれる。

ストーリーも面白く、本当に手の届きそうな距離で3人を見られる舞台に大満足だった。

(2013.6.15 青山円形劇場にて)

公式サイト
posted by すいっち at 22:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 舞台鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年06月15日

『探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点』

監督:橋本一
原作:東直己 ススキノ探偵シリーズ「探偵はひとりぼっち」(ハヤカワ文庫)
脚本:古沢良太、須藤泰司
出演:大泉洋、松田龍平、尾野真千子、ゴリ、渡部篤郎、田口トモロヲ、篠井英介、波岡一喜、近藤公園、筒井真理子、矢島謙一、松重豊、マギー、池内万作、安藤玉恵、佐藤かよ、麻美ゆま、桝田徳寿、冨田佳輔、徳井優、片桐竜次、ほか
2013年

2011年の前作『探偵はBARにいる』がそこそこ面白かったので、こちらも観てみようと思った。印象は驚くほど前作と変わらない。変わらないことを期待する観客層を狙っているのだろう。そして、観たあとの感想も、そっくり前回のをコピーしてもよいくらいだ。

札幌のススキノをホームグラウンドとする探偵「俺」(大泉洋)と懇意の、オカマのマサコちゃん(ゴリ)が殺された。しばらくたっても警察の捜査はいっこうに進展せず、探偵は相棒の高田(松田龍平)を呼びつけ、独自に事件を洗い始める。ところが、マサコちゃんの仲間だったはずのススキノの人間たちは一様に事件に関しては口を閉ざし、探偵に協力しようとしない。どうやら政界の大物、脱原発を旗印にカリスマ性を発揮する橡脇孝一郎(渡部篤郎)がからんでいるらしい。一方、マサコちゃんが大ファンだったというヴァイオリニスト河島弓子が探偵の前にあらわれる。自分の大切なファンを殺した犯人を突き止めたいというのだ。血気盛んな弓子を押さえるために、探偵は弓子に自分の依頼人になれと言う。様々な思惑が錯綜するなか、探偵は3種類の敵から襲われることになる。

映画の中では高田について何の紹介めいた描写もなかったので、どうだったっけと公式サイトを見たら、高田は北大農学部の助手であり、空手の師範代という設定だった。もう前作のことはほとんど忘れているので、これは何らかの形で紹介して欲しかったと思う。探偵を取り巻く人間模様の魅力は健在だ。情報をもたらしてくれる新聞記者の松尾(田口トモロヲ)、老舗ヤクザの幹部・相田(松重豊)、花岡組系暴れん坊ヤクザの佐山(波岡一喜)が前作からのオヤクソクで登場して楽しい。とりわけ佐山の暴虐振りを身体を張って演技する波岡は見物だ。そして怪しげなウェイトレス役の安藤玉恵が可愛くて最高!

ストーリー自体はさほど目新しくなく、結末もやや拍子抜けだ。今回のポイントとなる河島弓子にしろ、橡脇孝一郎にしろ、描き方が物足りなくて、ストーリーにしっかり絡んでいるように見えない。結局見どころは、探偵のコミカルかつ熱い人柄と、クールで喧嘩にめっぽう強い高田のアクションと、ススキノの町ということになろうか。

エンディングテーマに鈴木慶一の「スカンピン」が流れ、この映画にはぴったりの曲だが、思わず『転々』を思い出した。

(2013.6.14 池袋シネマサンシャインにて)

映画公式サイト
posted by すいっち at 09:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 映画鑑賞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。